【UPC (Düsseldorf Local Division) / 2026年07月20日】UPC_CFI_209/2026 - EP 2 593 025 B1に関する特許権侵害訴訟におけるハーグ送達条約に基づく受領拒否に対する送達有効化決定(R. 275.2 RoP)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

【当事者および対象特許】
原告:LiNA Medical AG(スイス法人)
被告:1. Tonglu Qianyan Medtech Co., Ltd.(中国法人)、2. Sam Lee(被告1の事業所住所に拠点を置く個人)、3. Eunitor GmbH(ドイツ法人)
対象特許:欧州特許第2 593 025号(EP 2 593 025 B1)

【事実経過】
2026年1月19日、原告は被告らに対し、対象特許の侵害を理由として特許権侵害訴訟を提起した。統一特許裁判所手続規則(Rules of Procedure: RoP)274.1(a)(2)およびハーグ送達条約(The Hague Service Convention: HSC)に従い、裁判所登録所(Registry)は中国に所在する被告1および被告2に対して訴状(Statement of Claim)の送達を試みた。しかし、送達の権限を有する中国の中央当局(competent Chinese authority)から、「受領者が文書の受領を拒否した(The recipient refused to accept the documents)」旨の通知がなされた。

【原告の申立て・主張】
原告はRoP 275条に基づき、裁判所掲示板への掲示または電子情報通信システムでの公表による「公示送達(public service)」の手続き(掲示から30日経過をもって送達の効力を生じさせる旨の決定)を行うよう申し立てた。

2. 判決の主文

I. 本手続(UPC_CFI_209/2026)における訴状を被告1および被告2の了知に供するために既に講じられた措置は、RoP 275.2条に基づく有効な送達(good service)を構成する。
II. 送達は本決定の日付(2026年7月20日)をもって効力を生じたものとみなす。
III. 本決定は、裁判所のウェブサイト上で公表されている決定および判決から検索できるよう、当事者名および事件番号とともに掲載される。

3. 主な争点

  • 争点1: 被告による訴状の受領拒否がある場合において、RoP 275.2条に基づく「既に講じられた措置を有効な送達とみなす決定(Order of good service)」の要件が充足されるか
  • 争点2: 他の代替送達手段をあらかじめ試みることなくRoP 275.2条を適用することが認められるか、および受領国(中国)の国内法との整合性(RoP 275.4条)

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. RoP 275.2条の適用可能性と正当な理由のない受領拒否
被告1および被告2は、EU域外かつ締約国域外である中国に送達先住所を有する。中国はハーグ送達条約の締約国であるため、RoP 274.1(b)に従い同条約に基づく送達が試みられた。被告1および被告2は、訴状の内容を了知する公正な機会(fair opportunity)を与えられていたにもかかわらず、正当な理由なく本格的かつ確定的に(seriously and finally)受領を拒否した。この受領拒否は、被告らが他の送達方法であっても受け入れないことを強く示唆するものである。

2. 更なる代替送達の試みの不要性(RoP 275.1条と275.2条の関係)
被告らの明確な拒否姿勢に鑑みれば、RoP 275.2条に基づく決定を下すにあたり、代替方法による送達をさらに試みる必要はない(マンハイム地方部 2025年12月1日決定 UPC_CFI_820/2024 - Corning v. Caihong 参照)。また、他に明白かつ実効性のある代替送達手段が存在しない本件においては、RoP 275.1条(新たな代替送達方法の命令)を適用する余地はない(デュッセルドルフ地方部 2025年11月11日決定 UPC_CFI_515/2025 - HP v. Shenzhen et al. 参照)。したがって、原告に対する実効的な権利保護(effective legal protection)を確保するためには、既に講じられた措置を有効な送達(good service)と命じることが必要かつ適切である。

3. 送達受領国の国内法(中華人民共和国民事訴訟法)との適合性(RoP 275.4条)
中華人民共和国民事訴訟法第95条は、受領者の所在が不明な場合または本節に定めるその他の手段により送達できない場合における代替方法として「公示送達(public notice)」を認めており(公告の発行日から30日経過で送達完了とみなす)、RoP 275.4条の要件も充足されている。

以上より、裁判所は、既に講じられた措置をもってRoP 275.2条に基づく有効な送達と認め、本決定の日付をもって送達の効力が生じたものと決定した。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

1. ハーグ送達条約下での「受領拒否」に対するUPC実務の定着
中国等の締約国へハーグ送達条約経由で送達を試みた際、被告が正当な理由なく受領を拒否した場合、原告は無駄な再送達手続を繰り返すことなく、RoP 275.2条を利用して迅速に送達の効力を確定(good serviceの決定を取得)できるという裁判例(Corning判決、HP判決)の法理が確立・追認された。

2. RoP 275.1条(代替送達の命令)とRoP 275.2条(既存措置の送達有効化)の使い分け
被告が受領拒否の姿勢を確定的に示している場合、裁判所はRoP 275.1条に基づく新たな代替送達の試みを命じるプロセスをバイパスし、直ちにRoP 275.2条を適用して既に講じられた送達手続を有効化できる。これにより、被告側の非協力的姿勢による訴訟の不当な遅延を回避し、原告の「実効的な権利保護」が優先される。

3. 企業法務・弁護士実務上の留意点
EU域外(特に中国企業・個人)を被告とするUPC侵害訴訟において、ハーグ条約経由の送達が「受領拒否(Refused to accept)」で返送された場合、代理人弁護士は速やかに送達受領国の国内法(本件では中国民事訴訟法95条)の公示送達規定等を確認した上で、RoP 275.2条に基づく「有効送達決定(Order of good service)」の申立てを行うことが実務上きわめて有効である。

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