【EPO審判部 / 2026年6月30日】T 1283/24 - 特許権者による特許テキストへの同意撤回に伴う特許取消決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、欧州特許第3557000号(発明の名称:「Auxiliary oil system for geared gas turbine engine」)に対する異議申立手続において、異議部が特許権者(RTX Corporation)の補助請求3に基づく補正形式で特許を維持する中間決定を下したことに対し、特許権者および異議申立人(Safran Aircraft Engines)の双方が審判請求(Appeal)を申し立てた事案である。

審判請求時、異議申立人は原決定の取消しおよび本件特許の取消し(Revocation)を求めた。一方、特許権者は原決定を取り消し付与時形式での特許維持(主請求)、あるいは補助請求1〜3に基づく特許維持を求めていた。 しかし、口頭審理の期日において特許権者は自己の審判請求を取り下げ、補助請求3を超える上位の請求も取り下げた(これにより特許権者は被審判請求人/Respondentの地位となった)。さらに、口頭審理の終結時に、特許権者は唯一係属していた請求(補助請求3)を取り下げるとともに、特許を維持するためのいかなるテキスト(明細書・クレーム等)に対する同意(approval)も撤回した。

2. 判決の主文

1. 原決定を取り消す(The decision under appeal is set aside)。
2. 本件特許を取り消す(The patent is revoked)。

3. 主な争点

  • 争点: 特許権者が特許維持のためのテキストに対する同意を全面的に撤回し、代替テキストも提出しない場合におけるEPC第113条(2)の適用と手続の終結方法

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) EPC第113条(2)に基づくテキスト同意の要件
EPC第113条(2)の規定に基づき、欧州特許庁(EPO)は特許権者によって提出された、または同意されたテキスト(text submitted to it, or agreed, by the patent proprietor)に基づいてのみ、欧州特許の審査および決定を行わなければならない。特許権者が特許のテキストをもはや承認しない旨を表明し、係属中のすべての請求を取り下げ、かつ特許維持のためのいかなる代替テキストも提案しない場合、当該同意は存在しないものとみなされる。

(2) 実体審査を行わない特許取消し
特許権者による同意の撤回により、審判部が審判請求を審理するための特許テキストが存在しない状態(no text of the patent on the basis of which the Board can consider the appeal)となる。このような状況下においては、審判部は特許性(新規性・進歩性等)に関する実体審査を行うことなく、直ちに特許を取り消す旨の決定を下して手続を終了させなければならない(EPO審決例集第11版 IV.D.2参照)。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

本決定は、特許権者が自発的に特許の維持を放棄する場合におけるEPOの確立された実務(定型的な手続処理)を再確認したものである。特許権者が異議・審判手続の継続を望まない場合、単に手続を放置・欠席するのではなく、明示的に「特許テキストへの同意の撤回(withdrawal of approval of the text)」および「係属中の全請求の取り下げ」を行うことで、実体審査を経ることなく迅速かつ終局的に特許取消決定(Revocation)を導くことができる。欧州特許プラクティスにおいて、手続コストの抑制や早期解決を図るための実務的防御・放棄スキームとして標準的に用いられる法理である。

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