1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
本件は、欧州特許第3 645 903号(EP 3 645 903)に関する仮処分申立手続(einstweiliges Verfügungsverfahren)において、申請人(Valeo Electrification)が統一特許裁判所手続規則(RoP)第262条の2および第262条A(R. 262.2, 262A VerfO)に基づき、申立書および証拠書類(BB_01、BB_11、BB_12)に含まれる営業秘密・秘密情報の保護(公衆への非公開および相手方閲覧権者の制限)を求めた事案である。
裁判長(報告裁判官)は当初、被申請人(SEG Automotive Germany GmbH)の訴訟代理人等にのみアクセスを認める暫定措置を発令したが、被申請人は自社の役職員を含む「コンフィデンシャリティ・クラブ(Confidentiality Club)」の対象者の拡大を求めるとともに、一部の情報は公知である点や一般公衆向け(RoP 262条)と相手方当事者向け(RoP 262条A)の区別が不明確であることを理由に申立の一部却下を主張した。その後、当事者間での協議を経て、被申請人側の閲覧権者を4名とする合意が成立した。
2. 判決の主文
裁判所は手続命令(Verfahrensanordnung)として以下の通り決定した。
- 申立書(特定の段落)および証拠書類(BB_01、BB_11、BB_12の指定箇所)を「要秘密保持情報(geheimhaltungsbedürftig)」として指定する。
- 上記情報へのアクセスを、被申請人の訴訟代理人・補助者、および被申請人が指定した自然人4名に限定する。
- 上記情報へのアクセスを得た者は、本件仮処分手続外での使用・開示をしてはならない(手続外で非秘密情報として正当に取得した場合等の除外事由を除く)。この義務は手続終了後も継続する。
- 本命令に対する有責な違反があった場合、裁判所は違反ごとに強制金(Zwangsgeld)を科すことができる。
- 本件秘密情報は一般公衆への開示から除外される(UPCA 58条、RoP 262.1(b), 262.2)。口頭弁論期日における一般公衆の傍聴制限(非公開)については別途決定する。
3. 主な争点
- 争点1: 秘密保護申立の適法性(Zulässigkeit)
対公衆の秘密保護(RoP 262条)と対相手方当事者の秘密保護(RoP 262条A)の峻別が不十分であるとの理由で申立が不適法・不明確となるか。 - 争点2: 秘密保持の必要性・実体(Begründetheit)
契約関係や納入時期等の情報が公知であるとの被申請人の反論を踏まえ、当該情報を秘密情報として保護すべきか。 - 争点3: 迅速・効率的な訴訟指揮(RoP 9.1条)と書面提出態様
仮処分等の緊急手続における複数回にわたる分割主張(mosaikmäßiger Vortrag)の許容性。
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
1. 申立の適法性について(RoP 262.2, 262A条、EU営業秘密指令9条、UPCA 58条)
裁判所は、RoP 262条Aに基づき相手方当事者におけるアクセス権者を限定する命令が下された場合、その反射的効果として一般公衆に対しても当然に非公開となる関係にあるため、公衆向けと当事者向けの区別が不明確であるとの被申請人の主張は当たらないとし、申立の適法性を認めた。なお、口頭弁論期日においても、秘密情報が扱われる時間帯は限定されたアクセス権者のみが出席可能となるのは自明であるとした。
2. 秘密性の判断および例外条項の適用について
被申請人は一部の用語や契約関係が公知であると主張したが、裁判所は、特定の用語であっても「要秘密保持の文脈(geheimhaltungsbedürftiger Kontext)」において一体不可分に使用されている以上、文脈から切り離して公知と扱うことはできないと判断した。また、手続外で独自に正当取得していた情報についての利用制限の懸念に対しては、命令主文第3項において「本件手続外で非秘密情報として正当に取得していた場合」を除外事由として明記することで相手方の利益保護を図った。
3. 効率的な手続運営(RoP 9.1条、209.1(a)条)
裁判所は、仮処分手続(Eilverfahren)の性質上、厳格な期間管理と効率的な審理が不可欠である旨を指摘した。短期間に複数の書面を断片的に提出する手法(mosaikmäßig verteilter Vortrag)は手続の効率性を害するものであり、指定期日内に一度の書面で争点を網羅して主張すべきであると両当事者に強く注意を促した。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
- RoP 262条(対公衆)と262条A(対当事者制限:Confidentiality Club)の関係性:
実務上、RoP 262条Aの申立が認められれば、当然にRoP 262条に基づく一般公衆への非開示も包含されるという関係が再確認された。 - 「文脈上の秘密性」の保護:
個々の単語や一般的概念が公知であっても、特定の事業文脈・取引文脈と不可分に結びついている場合には、全体として秘密情報として保護対象となり得ることが示されている。 - UPC仮処分実務における書面提出規律:
UPCの迅速手続においては、期日指定に基づく一括主張原則が重視され、断片的な追完・追主張(mosaikartiger Vortrag)は手続遅延を招くものとして裁判所から厳格に制限・指導される点に実務上の留意が必要である。
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