【UPC 控訴裁判所 / 2026年8月17日】UPC_CoA_87/2026 - 仮処分命令(差止命令)違反に基づく制裁金支払命令に対する控訴審決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、特許権者である被控訴人(原告・仮処分申請人:Occlutech GmbH、以下「Occlutech」)が、医療用閉鎖器具「MemoCarna ASD」および「MemoCarna VSD」を製造・販売する控訴人ら(第一審被告・相手方:Lepu Medical Technology (Beijing) Co., Ltdおよびそのオランダ現地法人、以下「Lepu」)に対し、特許権(EP 2 387 951)侵害の急迫の危険等を理由として仮処分を申し立てた事案に端を発する。

統一特許裁判所(UPC)ハンブルク地方部は2025年10月21日、ドイツ、フランス、イタリア、オランダおよびアイルランドの領域内における対象製品の「提供(offering)」「上市(placing on the market)」「使用」「輸入・所持」の差止めを命じ、各違反行為につき最大250,000ユーロの制裁金(penalty payment)を科し得る旨の仮処分命令(以下「PI命令」)を発令した(即時効力・執行力あり)。

その後、OcclutechはLepuがPI命令に違反して対象製品の提供を継続したとして制裁金の没取・支払(forfeiture of penalties)を申請。ハンブルク地方部は2026年5月20日付決定において、PI命令違反を認定し、Lepuに対し制裁金58,800ユーロの裁判所への支払および今後の違反に対する日額最大1,500ユーロの反復制裁金を命じた。

これに対しLepuは、(1) 自社ウェブサイトにおける免責文言(disclaimer)の欠落は委託先への指示漏れによる軽微な過失でありOcclutechに商業的損害は生じていないこと、(2) B2Bプラットフォーム「MedicalExpo」上の表示には免責文言が付記されており、Occlutech代理人による問い合わせに対する回答は挑発的・例外的な単発事象にすぎず継続的「提供」には当たらないこと等を理由に、制裁金額を20,000ユーロ以下に減額するよう求めて控訴した。

2. 判決の主文

1. 控訴を棄却する。
2. 控訴人ら(Lepu)は、被控訴人(Occlutech)が要した控訴審手続費用(執行停止申請費用を含む)を負担する。

3. 主な争点

  • 争点1: 差止命令の遵守義務と第三者・プラットフォーム管理責任の範囲(ウェブサイト運営委託先や第三者B2Bプラットフォーム利用時における命令遵守義務の帰責性および立証責任)
  • 争点2: UPCA第25条(a)における「提供(offering)」の該当性およびウェブサイト上の免責条項(disclaimer)/ジオブロッキングの有効性(実際の販売や商業的損害の不存在、購入機能制限のみのジオブロッキング、免責条項の存在が「提供」の成立を阻却するか否か)
  • 争点3: 制裁金(Penalties)の法的性質および裁量による減額要件(制裁金の懲戒的性質と違反期間・態様に応じた制裁金算定の適法性)

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) 命令遵守義務と立証責任の所在(UPCA第82条(4)、UPC手続規則(RoP)規則354.3)

  • 規範の定立: 差止命令の名宛人は、命令履行を代行させる第三者を管理・統制する義務を負う。同様に、第三者のマーケティングプラットフォームを利用してコンテンツを提供する事業者には、当該プラットフォームのコンテンツが裁判所命令違反を招かないよう確保する責任がある。また、命令が完全にかつ適時に遵守されたことの立証責任は、内部情報を有する被告(義務者)側にある。
  • 当てはめ: 自社オランダ法人のウェブサイト更新時に免責文言が脱落し91日間にわたり製品が提供状態にあった点について、Lepuが主張する「指示漏れという軽微な管理上の過失」は、適時・完全な遵守が合理的に妨げられていたことを基礎付ける事由にはならず、Lepuの管理領域内の過失として責任を免れない。

(2) 「提供(offering)」の法的性質と免責条項/ジオブロッキングの限界

  • 規範の定立:
    • UPCA第25条において「提供(offering)」と「上市(placing on the market)」は独立した行為類型である。したがって、対象国からの「購入機能」のみを遮断するジオブロッキングを実施しても、「提供」の差止義務を履行したことにはならない。
    • 特許法上の「提供」は実際の売買契約成立や納品に限られず、閲覧者が購入契約等の申込みを行えるよう提示する行為(すなわち「申込みの誘引(invitatio ad offerendum)」)で足りる(先行判例:Belkin vs Philips, UPC_CoA_534/2024参照)。
    • ウェブサイト上の免責条項(disclaimer)が有効であるためには、単に文言を掲載するだけでは足りず、サイト内のいかなるコンテンツも訪問者から「禁止領域内での提供」と合理的に解釈され得ない状態が確保されていなければならない。
  • 当てはめ: B2Bプラットフォーム「MedicalExpo」において、ドイツ向け非取扱の免責文言が存在したとしても、ドイツ語で製品説明がなされ、ドイツ語で「コンタクトを促す能動的な誘引」が表示されていた。さらにOcclutech代理人の問合せに対しLepuの担当者が欧州での入手可能性を肯定する返答を行った事実等に照らせば、ウェブサイト全体として禁止領域内の潜在的顧客に向けた「提供」を構成していたと認められる。

(3) 制裁金(Penalty Payments)の性質と算定の妥当性

  • 判断: 制裁金は命令遵守を強制する機能(coercive)のみならず懲戒的性質(punitive nature)を有し、相手方への損害賠償ではなく裁判所に支払われるものである(先行判例:Belkin vs Philips, UPC_CoA_845/2024参照)。したがって、「実際の販売数量がゼロであった」「相手方に実損害が生じていない」といった事情は、命令違反の事実を否定するものではなく、没取金額を直ちに減額する理由にはならない。
  • また、MedicalExpoへの掲載は単発のメール送受信にとどまらず継続的な「提供」行為を構成していた(133日間)。第一審地方部が定めた58,800ユーロの制裁金は、原PI命令が定めた「違反1件あたり最大250,000ユーロ」から比例原則に基づき大幅に減額された適法な裁量の範囲内である。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 差止命令受領時における包括的コンプライアンス管理の徹底: 外部委託先(ウェブ制作会社等)の単純な過失や指示漏れはUPC実務上「不可抗力」や「過失なし」の抗弁とは認められず、義務者本人の帰責事由となる。社内統制のみならず委託先管理・ログ管理の厳格化が実務上不可欠である。
  • デジタルマーケティングおよび越境EC/B2Bプラットフォーム対策の実務指針: 越境プラットフォーム(MedicalExpo等)において単に「○○国では販売していません」等の形式的な免責文言(disclaimer)を記載したり、カート機能を地域遮断(ジオブロッキング)するだけでは、UPCA第25条(a)の「提供(offering)」の差止義務違反を回避できない。言語設定(現地語表示)、問合せ導線、営業担当者の個別応答を含め、禁止領域からのアプローチを完全に遮断・排除する設計が求められる。
  • 制裁金没取手続(Rule 354 RoP)の防御戦略: UPCにおいて制裁金は相手方の損害填補ではなく懲罰・司法制裁の性質を持つため、「実損害・実売の不存在」を理由とする減額主張は通用しにくい。義務者側としては、命令受領後直ちに実施した具体的・客観的な遵守措置(ログや指示書面)を立証責任に基づき疎明・立証することが極めて重要となる。

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