【UPC デュッセルドルフ地方部 / 2026年8月21日】UPC_CFI_466/2025, UPC_CFI_869/2025 - 口頭弁論における同時通訳費用負担およびビデオ会議参加許可に関する手続命令

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、日本法人である原告(大日本印刷株式会社)が、ドイツ法人である被告ら(Zapp AGおよびZapp Precision Metals GmbH)に対し、欧州特許(EP 3 805 415 B1)の侵害に基づき、手続言語をドイツ語として提起した特許権侵害訴訟である。被告らは無効の反訴を提起している。

原告は、統一特許裁判所手続規則(RoP: Rules of Procedure)第109条第1項等に基づき、2026年9月17日に予定されている口頭弁論期日において、手続言語であるドイツ語から日本語への同時通訳を手配すること(およびその費用を訴訟費用とすること)、並びに原告の日本側関係者(社内担当者および日本の外部弁護士・弁理士)がビデオ会議システムを通じて期日に参加することの許可を申し立てた。

これに対し被告らは、原告自身の費用負担による通訳人の手配および法廷設備の利用(RoP第109条第4項・第5項)には反対しないものの、裁判所の手配による同時通訳費用が訴訟費用(RoP第150条)として敗訴者負担等の対象となることについては反対した。

2. 判決の主文

裁判所(代理裁判長)は、以下のとおり決定(手続命令)した。

  1. 原告が、自己の費用負担において1名または複数の通訳人を手配し、必要に応じて法廷内に設置された同時通訳設備を利用することを許可する。
  2. 原告が上記通訳設備を利用する場合、口頭弁論期日の遅くとも2週間前までにデュッセルドルフ地方部書記部に通知し、技術的実施の詳細について調整を行わなければならない。
  3. 原告の日本人従業員および原告を補佐する日本の代理人(協和特許法律事務所の弁護士・弁理士)に対し、ビデオ会議システムを通じた口頭弁論期日への参加を許可する。

3. 主な争点

  • 争点1: 口頭弁論におけるドイツ語から日本語への同時通訳の可否、およびその費用の訴訟費用(Verfahrenskosten)算入の可否(UPCA第51条第2項、RoP第109条)
  • 争点2: 当事者の社内関係者および外国(日本)代理人のビデオ会議による期日参加の可否(RoP第112条第3項第1文(a))

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

裁判所は、RoP第109条に基づく同時通訳の申立てについて、確立された裁判例に従い「2段階審査基準」を適用した。

  • 第1段階(同時通訳の許否):
    手続言語を解さない当事者関係者が口頭弁論に実質的に参加し、審理経過を把握できるようにするため、同時通訳を認めること自体は適切(angebracht)である。したがって、原告が自費で通訳人を手配し、法廷の同時通訳設備を使用することは許可される(RoP第109条第4項)。
  • 第2段階(費用の訴訟費用該当性):
    多言語が用いられる国際裁判所であるUPCにおいて、外国当事者が手続言語によって被る負担は一般的な範囲を出るものではない。原告の権利擁護はドイツ語に堪能な訴訟代理人によって十分に図られている。
    原告は「被告の侵害行為および無効反訴の提起により受動的に応訴・提訴を余儀なくされた」旨を主張するが、侵害訴訟の提起や無効反訴の併合はUPCの手続において通常想定される事象であり、この判断を左右しない。
    したがって、当事者関係者の傍聴・把握のための通訳費用を裁判所が手配し、これを訴訟費用(Verfahrenskosten)として敗訴側へ転嫁し得る費用とすることは相当(angemessen)ではない(RoP第109条第5項末文)。
  • ビデオ会議による参加:
    RoP第112条第3項第1文(a)に基づき、原告の日本人従業員および外部代理人のビデオ会議による期日への参加を許可した。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 同時通訳に関する2段階審査の定着: 先行するハーグ地方部決定(Spyra v. Amycel)およびデュッセルドルフ地方部決定(Fujifilm v. Kodak, Dolby v. Beko)等で確立された「①通訳実施の必要性」と「②費用の訴訟費用該当性」を峻別する2段階審査の枠組みが本件でも再確認されている。
  • 非手続言語(日本語等)の通訳費用の自己負担原則: 自国語を解さない非EU圏(日本等)の当事者が、現地の訴訟代理人(弁護士・弁理士)を通じて十分な代理を受けている場合、社内関係者や母国代理人のための通訳費用は原則として「自費負担(RoP第109条第4項・第5項末文)」となり、訴訟費用(敗訴者負担の対象)としては認められない実務傾向が強固となっている。
  • 実務的対応: 法廷設備を利用した自費通訳を行う場合、期日の一定期間前(本件では2週間前)までに書記部と技術的調整を完了させる手続的規律が求められる点、およびRoP第112条を活用した本国関係者のリモート同席が柔軟に認められている点に留意すべきである。

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