【EPO審判部 / 2026年3月24日】T 1370/24 - 密封テープの製造方法、密封テープ及び装置に関する異議部中間決定に対する双方不服申立審判事件

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、欧州特許第3 150 366号(発明の名称:「Verfahren zum Herstellen eines Abdichtbandes, Abdichtband und Vorrichtung zur Durchführung des Verfahrens[密封テープの製造方法、密封テープ及び当該方法を実施するための装置]」)に対する異議申立手続において、特許を補助請求項21(Hilfsantrag 21)の限定された範囲で維持した欧州特許庁(EPO)異議部の第1審中間決定に対し、特許権者(Tremco CPG Germany GmbH)および異議申立人(ISO-Chemie GmbH)の双方が不服として審判請求(Beschwerde)を申し立てた事案である。

  • 特許権者(審判請求人I)の請求: 原決定を取り消し、登録時のクレームセット(Hauptantrag:主請求項)による特許維持、または補正された補助請求項1〜25に基づく特許維持を求めた。
  • 異議申立人(審判請求人II)の請求: 原決定を取り消し、特許の完全取消(Widerruf)を求めた。

2. 判決の主文

双方の審判請求を棄却する(Die Beschwerden werden zurückgewiesen)。
(これにより、特許を補助請求項21の範囲で維持した異議部の中間決定が確定・維持された。)

3. 主な争点

  • 争点1(新規事項の追加・中間的一般化 / Art. 100(c), 123(2) EPÜ): 当初明細書から含浸PUR軟質フォームの構成を抽出する際、「条件付き粘着性」および「遅延復元性」という作用効果をクレームに含めなかった点、および装置クレームに特定の圧縮装置構成を追加した補正が、許されない中間的一般化(unzulässige Zwischenverallgemeinerung)に該当するか。
  • 争点2(新規性 / Art. 54(3) EPÜ): 先行文献D1(EP 2 990 551 A1)に基づき、主請求項の製造方法(クレーム1)、物(クレーム9)、および装置(クレーム11)の新規性が否定されるか。特に、装置クレームにおける「50%以上の高さ減少」の機能的・用途的限定の解釈。
  • 争点3(明確性 / Art. 84 EPÜ): 補助請求項1〜12に含まれる「parallel senkrecht(平行かつ垂直)」という幾何学的表現が明確性要件を満たすか。
  • 争点4(進歩性 / Art. 56 EPÜ): 補助請求項15〜20の製造方法クレームが、先行文献D2を主引例とし、周知技術または副引例(D11, D5)の組み合わせにより容易想到であるか。
  • 争点5(補助請求項21の有効性): 補助請求項21がArt. 123(2), Art. 54, Art. 56 EPÜの要件をすべて具備しているか。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) 主請求項に対する新規事項追加(Art. 100(c) EPÜ)の不存在

審判部は、異議申立人の中間的一般化の主張を退けた。

  • 含浸PURフォームの限定: 当初明細書の記載構造上、「条件付き粘着性」および「遅延復元性」は、水性含浸液による浸漬・乾燥という任意付加的な処理に伴う効果として記載されており、含浸PUR軟質フォーム全般に不可分に結合した必須構成ではない。拡大審判部決定G 1/24を考慮しても、明細書に記載された作用効果を文理を超えて必須構成として請求項に読み込むことは正当化されない。
  • 圧縮装置(Merkmal T8, T9): 当初開示において、50%以上の高さ圧縮を伴う方法を実施するための装置が包括的に開示されているため、当業者であれば同圧縮を達成し得る加圧機構を有する装置が直接的かつ一義的に開示されていると理解できる。したがって、Art. 100(c) EPÜの異議理由は成立しない。

(2) 主請求項の特許性(D1に基づく新規性欠如)

  • 方法(クレーム1): D1には「強く圧縮された(stark komprimiert)」状態の記載はあるものの、「50%以上高さを減少させる(Merkmal V14)」ことの直接的かつ一義的な開示とは認められず、クレーム1の新規性は維持される。
  • 装置(クレーム11): 装置クレームにおける「高さが50%以上減少されている」という限定は、装置自体の構造ではなく、被加工物の状態を表す適合性/適応性(Eignung)の限定として解釈される。当業者の共通一般知識に照らせば、密封テープ分野において柔軟な発泡体を「強く圧縮」できるD1の圧縮ローラー51/52は、通常1/4〜1/5に圧縮されるテープに対して「50%以上圧縮する能力」を必然的かつ直接的に備えている。したがって、クレーム11はD1により新規性が否定される。これにより主請求項は全体として維持不可となる。

(3) 補助請求項1〜12の明確性欠如(Art. 84 EPÜ)

「parallel senkrecht(平行かつ垂直)」との限定(Merkmal A15)は、文言上、面と面が同時に平行かつ垂直であると解され、当業者にとって意味内容が不明瞭である。特許権者は空間ベクトルを用いた解釈を主張したが、クレームの文言自体から一義的に把握できないため、Art. 84 EPÜ違反により却下された。

(4) 補助請求項13〜20の特許性欠如(新規性・進歩性欠如)

  • 補助請求項13・14(新規性欠如): 装置クレームを含み、D1のローラー対41等によって同一構成・機能が開示されているため、新規性を欠く。
  • 補助請求項15〜20(進歩性欠如): 主引例D2に対し、相違点は「両面粘着層を有するフィルムの使用(V12)」および「50%以上の高さ圧縮(V13, V14)」である。これら2つの特徴間に格別な相乗効果(Synergie)は立証されておらず、それぞれ独立した部分課題として評価される。前者はD2自体の示唆(スリット両側面への接着)から、後者は周知技術(D11/D5)から当業者が容易に想到し得る。したがって、進歩性を欠く。

(5) 補助請求項21の適法性

補助請求項21は「少なくとも1つの支持体部分を密封要素に押し付ける(Merkmal V15)」という方法限定のみから構成される。本構成は当初明細書に支持されており(Art. 123(2)充足)、かつD1に対してMerkmal V14(50%以上の圧縮)の相違点が存在するため新規性を有する。異議申立人から有効な進歩性欠如の立証がなされていないため、本請求項に基づく特許維持が正当と判断された。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • G 1/24(クレーム解釈)と「中間的一般化」の境界: 特許権者・異議申立人の双方が拡大審判部決定G 1/24を引用して争ったが、審判部は「明細書の記載を参酌してクレーム解釈を行うこと」と「明細書中の有利な効果・副次的特徴を必須要件としてクレームに読み込み、中間的一般化を擬制/回避すること」を明確に区別した。明細書に記載された作用効果が、特定の手順の任意的結果に過ぎない場合、それを除外したクレーム補正であっても許されない中間的一般化には当たらないという厳格な文理・技術的判断基準が示されている。
  • 装置クレームにおける「方法/結果パラメーター」の解釈実務: 装置クレーム中に「被加工物が〜%変形される」といった処理結果や方法パラメーター(Merkmal T9)が記載された場合、EPOの実務上、それは装置に対する「当該結果を達成するのに適していること(suitable for)」という適応性の限定と解釈される。この場合、先行技術に同様の圧縮能力を有する機構(汎用ローラー等)が存在すれば、明示的な変形数値の開示がなくとも新規性が否定されるリスクが高い。装置クレームの起草・補正においては、被加工物のパラメーターではなく、装置自体の構造的特徴(ストッパー、ギャップ幅制御機構等)で特定すべきである。
  • 幾何学的限定の明確性(Art. 84 EPÜ): 「parallel senkrecht」のように、多次元的な直交・平行関係を単一の複合語で表現する不自然なクレームドラフティングは、Art. 84 EPÜ(明確性)のハードルを越えられない。補正に際しては、基準線・基準面と各方向ベクトルとの幾何学的関係を正確かつ標準的な用語で定義する必要がある。

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