【欧州特許庁 審判部(EPO Boards of Appeal) / 2026年7月2日】T 1456/24 - トレーラー牽引装置の荷重検出構造に関する特許有効性(新規性・進歩性)審判事件

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、ACPS Automotive GmbHが保有する欧州特許第3455091号(発明の名称:「トレーラー牽引および/または荷重支持ユニット保持装置」)に対し、WESTFALIA - Automotive GmbHが異議申立てを行い、異議部が特許を訂正された範囲(当時の補助請求II)で維持する旨の中間決定を下したことに対する審判請求事件である。

審判手続において、特許権者は自己の審判請求を取り下げるとともに、審判請求理由書とともに提出した補助請求IVに基づく限定減縮された特許の維持を求めた。一方、異議申立人(請求人)は、当該補助請求IVに係る請求項1記載の発明は、先行技術文献D8(US 6,053,521)により新規性を欠き(EPC第54条)、また文献D1(DE 10 2014 013 812 A1)およびD8の組合せに基づいて当業者が容易に想到し得たものであるため進歩性を欠く(EPC第56条)として、原決定の取消しおよび特許取消しを求めた。

2. 判決の主文

1. 原決定(異議部中間決定)を取り消す。
2. 本件を異議部に差し戻し、補助請求IV(請求項1〜16、口頭審理にて確定された明細書、および特許公報記載の図面1〜25)に基づく訂正された範囲で特許を維持することを命じる。

3. 主な争点

  • 争点1:新規性(EPC第54条)
    請求項1で特定される「センサキャリア(Sensorträger)」およびその配置構造が、先行技術D8(図4)に実質的に開示されているか(保持アーム自体またはその一部をセンサキャリアと読み替える解釈の可否)。
  • 争点2:進歩性(EPC第56条)
    D1を最も近い先行技術(closest prior art)として、D8に記載されたセンサ構成を組み合わせることにより、請求項1に係る発明(共通のセンサキャリアの両面に配置され、垂直中立基準面を貫通する構成等)に当業者が容易に到達できたか。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) 新規性について(具備)

  • 構成要件の解釈:請求項1において、センサキャリアは「変形可能な保持アーム部分と結合され、保持アーム部分と質的に同一の可逆的変形挙動を示す」こと、および「保持アーム部分の垂直中立基準面(Vertikal-Neutralreferenzfläche)がセンサキャリアのセンサ担持面間の体積領域を貫通する」ことが規定されている。
  • D8との対比:D8の図4は、保持アームの上下の凹部に歪みセンサを直接設けた構成を開示しているにすぎない。異議申立人は、センサが設けられた保持アーム部分それ自体が「センサキャリア」に該当すると主張するが、クレーム文言上、変形挙動を比較対照し結合される対象である以上、センサキャリアは保持アームとは別個独立の別部材でなければならず、一体物(モノリシック構造)の一部をセンサキャリアとみなす解釈は採用できない。
  • また、保持アームの一部をセンサキャリアと解したとしても、有限な面である「垂直中立基準面」が別箇所のセンサキャリアを貫通する関係を満たさないため、新規性は否定されない。

(2) 進歩性について(具備)

  • 動機の不存在:最も近い先行技術D1は、幾何学的に複雑に変形する湾曲した保持アームの2箇所のディスクリートな位置で単一のセンサを用いて長手方向の歪みを測定し、垂直荷重・牽引力を割り出す構成を開示している。D1の構成において、測定箇所に2つの近接したセンサを設ける動機はなく、曲げモーメント検出を目的として対向配置を用いるD8を組み合わせる必然性がない。
  • 設計変更・組合せの限界:仮にD8の教示を考慮したとしても、D8からは保持アームの上面と下面に個別のセンサ(または別個のキャリア)を配置する着想しか得られず、「単一のセンサキャリアの両面にセンサを担持させ、かつその単一キャリアが垂直中立基準面を貫通するように保持アーム内部に配置する」という請求項1の具体的構造に到達する動機付けはない。したがって、進歩性を有する。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • クレーム解釈における「部材の独立性」の判断: クレームにおいて「部材Aが部材Bと結合され、部材Aが部材Bと同一の挙動を示す」等の相対的な関係性・挙動が規定されている場合、物理的に単一の部材(モノリシック構造)の異なる領域を切り分けて構成要件AおよびBに当てはめる抗弁(部材の読み替え主張)は、文言解釈上排斥されることが明確に示された。
  • 部分間・幾何学的配置関係による新規性・進歩性の確保: 単なるセンサの対向配置という上位概念的な機能ではなく、「単一のキャリア部材が特定の中立面を貫通して両面にセンサを保持する」という幾何学的・機械的な構造特定が、先行技術(別個センサ配置や直接貼付)に対する有効な差別化要素(新規性・非自明性の根拠)として機能している。

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