【UPCミュンヘン地方分館 / 2026年08月06日】UPC_CFI_1569/2025 - 可償費用上限(Cost Ceiling)の引き上げ申請要件に関する費用確定決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、統一特許裁判所(UPC)ミュンヘン地方分館における仮処分命令手続(UPC_CFI_693/2025)の終結に伴い、仮処分被告(申立人:Niche Biomedical, Inc.)が仮処分原告(相手方:ONWARD Medical N.V.)に対し、手続費用の償還を求めて費用確定(Kostenfestsetzung)を申し立てた事案である。

【主な事実経過および当事者の主張】

  • 申立人の請求・主張:訴訟物価額1,000,000ユーロに対応する弁護士費用等の可償費用上限額(Obergrenze)は112,000ユーロであるが、手続初期の保護書面(Schutzschrift)および答弁書において上限を超える費用(168,000ユーロ等)の暫定償還を請求していた。これはUPC費用上限規則(管理委員会決定)に基づく上限の引き上げ申請に該当するため、上限を50%引き上げた168,200ユーロの償還が認められるべきであると主張した。また、条文の明示的な引用がないことを理由とする不支給は単なる形式主義(bloße Förmelei)であると反論した。
  • 相手方の反論:申立人は手続上、費用上限の引き上げ申請(Antrag auf Anhebung der Obergrenze)を明示的に行っていない。また、提示された請求書・タイムシートに過度な黒塗り(Schwaerzung)があり内容が不透明であること、無関係なドイツ国内訴訟用保護書面の作成費用、米国代理人との協議費用、不必要な先行技術調査費用が含まれており不当であるとして、請求の棄却または減額(最高でも上限の半額である56,000ユーロへの減額)を求めた。

2. 判決の主文

1. 仮処分手続における訴訟物価額を1,000,000ユーロと確定する。
2. 相手方は本決定の送達から3週間以内に、申立人に対し112,000ユーロを支払わなければならない。
3. 申立人のその余の請求(上限を超える168,200ユーロの確定指定の申立て)を棄却する。

3. 主な争点

  • 争点1: [可償費用上限の引き上げ申請の定立要件] 本案手続において単に「上限を超える金額の(暫定的な)費用償還」を求めたことが、2023年4月24日管理委員会決定第2条第4項に基づく「可償費用上限の引き上げ申請」と認められるか。
  • 争点2: [可償費用の算定および上限額の適用] 相手方が主張する非可償項目(黒塗り部分や無関係な業務)を控除した場合の妥当な費用償還額、および適用される上限額。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. 争点1について:費用上限引き上げ申請の不成立

  • 判断基準(法的規範):2023年4月24日の管理委員会決定第2条第4項に基づく費用上限の引き上げ(または引き下げ)申請が成立するためには、当事者の申請から「上限の引き上げまたは引き下げを求めていること」が明示的かつ一義的(ausdrücklich und eindeutig)に示されていなければならない(ヘッドノート1)。
  • 理由付けと当てはめ:
    • 明確かつ決定的な申請を求める要件は、単なる「形式主義(bloße Förmelei)」ではなく、UPC協定(UPCA)第76条等に由来する重要な手続原則である。
    • 単に「相手方は仮に168,000ユーロを支払え」というような特定額の(暫定的な)費用償還を求める請求は、費用上限自体の引き上げ申請(「上限額を〇〇ユーロに引き上げることを求める」)とは明確に区別される(ヘッドノート2)。
    • 上限引き上げ申請は、本案(仮処分手続)の終結前に裁判所が判断を下せるよう早期(原則として訴状または答弁書提出時)に行う必要がある。本案決定前に裁判所へ「事前に判断すべき上限引き上げ申請が存在する」ことを認識させる必要があるため、明示的な申請が不可欠である。
    • したがって、単に実費・弁護士費用が上限を超過したことを指摘・請求しただけでは引き上げ申請とは認められず、本件において上限引き上げ申請はなされていない。なお、本案手続が終了した後に上限引き上げを申請することは不可である。

2. 争点2について:可償額の算定と主文の結論

  • 申立人の弁護士・特許弁護士の時間単価(パートナー約600〜700ユーロ、アソシエイト約450〜500ユーロ)は高額ではあるものの、実務上合意・支払われている範囲内であり妥当と認められる。
  • 相手方が「償還不可」として具体的に争い、申立人が認否・反論を行わなかった個別の業務時間(不必要な先行技術調査、ドイツ国内手続費用、米国代理人協議等)をすべて差し引いて計算しても、申立人に発生した妥当な費用はなお上限額(112,000ユーロ)を超過する。
  • したがって、個々の争点化された費用の可償性を細かく確定するまでもなく、適用される上限額である112,000ユーロ全額の支払を命じるのが相当である。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

1. 費用上限引き上げ(Raise of Cost Ceiling)の手続厳格性
UPC手続において、タイムシート上の発生費用が規定の上限額(Scale of Ceilings)を超える見込みである場合、当事者は単に実際の発生費用を請求書や答弁書に記載するだけでは足りない。管理委員会決定第2条第4項に基づき、「費用上限の引き上げを求める(Antrag auf Anhebung der Obergrenze)」旨を明示的かつ独立した申請として手続初期に提出しなければ失権するという厳格な実務ルールが確立された。

2. 裁判所の許可なき追加書面の不適法性
本判決では、報告裁判官(Berichterstatter)の事前の手続命令(Anordnung)なしに自主的に提出された書面(6月13日付書面)について、結果的には聴問権(Anhörung)の観点から斟酌されたものの、判示において「UPC手続規則(Rules of Procedure)に定めがない自主的な意見提出は認められず、裁判所の指示が必要である」と厳しく注意がなされている。実務担当者はUPCにおける主張立証の指示・書面提出の命令管理に留意する必要がある。

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