【UPC Local Chamber Munich / 2026年07月29日】UPC_CFI_515/2026 (UPC_CFI_1797/2026) - 証拠文書の抜粋提出と機密保持手続(Rule 262A)における「未編集の文書」の解釈に関する合議体決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

原告・反被告CA, Inc.(以下「CA」)と、被告・反原告Deutsche Telekom AGおよびTelekom Deutschland GmbH(以下「Telekom」)との間の特許(EP 1 955 151)侵害訴訟および無効反訴において、Telekomは答弁書において訴訟資料(Anlage B5)を提出した。Anlage B5は、ある全体文書(115頁)から特定の頁(45頁目等)を切り出した一部抜粋(Auszug)であった。

Telekomは当該Anlage B5に含まれる製品機能等に関する情報の機密性を理由に、統一特許裁判所手続規程(UPC Rules of Procedure, 以下「VerfO」)Rule 262Aに基づく機密保持措置を申請し、手続報告者(Berichterstatter)は2026年6月22日付けで機密保持命令を発令した。

これに対しCAは、Rule 333.1 VerfOに基づき合議体(Spruchkörper)へ本決定の再審理(Überprüfung)を請求した。CAの主張の骨子は以下の通りである:

  • Telekomが提出したのは一部抜粋に過ぎず、Rule 262A.3 VerfOが要求する「未編集の文書(unbearbeitetes Dokument)」の要件を満たしていない。
  • 全体文書(115頁)の文脈を把握できなければ、提出された抜粋箇所の機密保持の正当性や文脈上の意味を適切に評価・反論(Rule 262A.4 VerfOに基づく意見提出)できず、武器対等の原則に反する。
  • したがって、Telekomに対し元となった全体文書(または特定の目次や関連箇所)の完全かつ非墨塗りの電子版を提出させ、それに基づき再度機密保持の決定を行うべきである。

2. 判決の主文

1. 原告(CA)の2026年7月7日付け再審理請求を棄却する。
2. 手続報告者の2026年6月22日付け決定(機密保持命令)を維持する。
3. 控訴(Berufung)は許可しない。

3. 主な争点

  • 争点1: Rule 262A.3 VerfOにおける「未編集の文書(unbearbeitetes Dokument)」の解釈
    全体文書の一部抜粋(Auszug)として提出された証拠は、Rule 262A.3 VerfOの規定する「未編集の文書」に該当し得るか。
  • 争点2: 機密保持手続における全体文書(未提出部分)の開示請求権の有無
    機密保持手続(Rule 262A VerfO)において、相手方当事者は機密保持の対象となった証拠抜粋の元である「全体文書」の開示を求める権利を有するか(Rule 262A.4 VerfOおよび武器対等の原則との関係)。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

合議体は、手続報告者の判断を全面的に支持し、CAの再審理請求を棄却した。ロジックの要旨は以下の通りである。

1. 「未編集の文書」の解釈(争点1関係)
Rule 262A.3 VerfOの趣旨・目的に鑑み、「未編集の文書」とは、Rule 262A.1 VerfOに基づきアクセス制限を行おうとする「情報または証拠が含まれている文書自体」を指す。したがって、元となる全体文書が存在する場合であっても、その一部抜粋であっても「未編集の文書」となり得る。技術的・形式的に元文書全体である必要はなく、手続に導入された証拠(本件ではAnlage B5)の非墨塗り版(保護対象情報がそのまま記載された状態)が存在していれば足りる。

2. 全体文書の開示義務および武器対等の原則(争点2関係)
Rule 262A.3 VerfOから、機密制限を受ける側の当事者が、抜粋の元となった「全体文書」を閲覧する権利は導き出されない。

  • 意見提出権の充足(Rule 262A.4 VerfO):同条に基づく「十分な情報に基づく意見提出」のためには、機密保護の対象とされている具体的情報・証拠そのものが(墨塗り版と非墨塗り版の双方の形で)提示されれば十分である。本件においてTelekomは双方を提出しており、CAは機密性の有無を評価・反論できる状態にあった。
  • 全体文書の必要性の不不立証:未提出の全体文書に含まれる他の情報への参照(暗黙の参照を含む)が存在するということだけでは、具体的機密保持申請への反論に全体文書が必要不可欠であることの立証にはならない。訴訟未導入の情報は本件手続の審理対象外である。
  • 武器対等の原則:「どちらの当事者が全体文書を知っているか」ではなく、「どの情報が手続に導入され主張の基礎とされたか」が基準となる。当事者は自己の提出・主張内容に責任を負う(主張責任・提出責任)。

3. 適切な手続ルートの教示
なお、当事者が相手方の所持する未提出の関連文書や全体文書の提出を求めたい場合、機密保持手続(Rule 262A VerfO)を迂回ルートとして利用することは不適切であり、文書提出命令の手続(Rule 190 VerfO)によるべきである(現にCAは別途Rule 190の申請を行っている)。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

1. Rule 262A VerfOにおける「未編集の文書」の意義の定立
本判決は、Rule 262A.3 VerfOの「未編集の文書(unbearbeitetes Dokument)」という文言について、実質的・機能的解釈を採用した。即ち、「未編集」とは「編集前の元データ全体」ではなく「手続に提出された証拠の未墨塗り(原文)状態」を意味することを明確にした。これにより、大規模な文書の一部抜粋のみを証拠提出して機密保護を求める実務が認容された。

2. 機密保持手続(Rule 262A)と証拠開示手続(Rule 190)の明確な棲み分け
機密保持制限の審査手続において、当事者が「文脈の把握」等を口実に未提出の全体文書の開示を要求する戦術を裁判所は退けた。相手方の未提出文書を入手したい場合は、正攻法としてRule 190 VerfO(文書提出命令請求)の要件(必要性・比例性など)を満たして申請すべきであることが示された。

3. 機密保持異議における実務上の留意点
機密保持命令に対して異議(再審理請求等)を申し立てる際、当事者は単に「全体文書が見えないから評価できない」という形式的理由を述べるだけでは不十分であり、開示されている「具体的情報(本件では製品の機能等)」そのものがなぜ秘密性・商業的価値を欠くのか、あるいはなぜ全体文書がなければ機密性の判断が不可能なのかを具体的に主張・立証しなければならない。

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