【UPCマンハイム地方部 / 2026年08月10日】UPC_CFI_452/2025 - 特許侵害訴訟および特許無効反訴の取下げ許可ならびに裁判所手数料の一部還付決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、原告(Wilus Institute of Standards and Technology, Inc.)が被告ら(ASUSTeK Computer, Inc.、ASUS Computer GmbHほか4名)に対し、欧州特許(EP 3 849 157)に基づく特許権侵害訴訟(UPC_CFI_452/2025)を提起した事案である。原告は裁判所手数料として24,000ユーロを納付した。

これに対し、被告2(ASUS Computer GmbH)は原告および反訴被告2(SK Telecom Co., Ltd.)を相手方として特許無効反訴(UPC_CFI_1152/2025)を提起し、手数料20,000ユーロを納付した。また、後日訴状の送達を受けた被告1(ASUSTeK Computer, Inc.)も同一の相手方に対して別個の特許無効反訴(UPC_CFI_752/2026)を提起し、手数料26,500ユーロを納付した。

その後、書面手続(written procedure)の終結前に、当事者双方は合意の上、相手方の同意を得て、かつ訴訟費用負担の決定(cost decision)を求めない形で、本訴および各無効反訴の取下げ(withdrawal)の許可を申し立てた。併せて、統一特許裁判所手続規則(RoP)Rule 370.11およびRule 370.9(b)に基づき、納付済み裁判所手数料の50%の還付を申請した。

2. 判決の主文

1. 被告1ないし6に対する特許侵害訴訟(UPC_CFI_452/2025)の取下げを許可し、当該訴訟手続の終了を宣言する。
2. 被告2が提起した特許無効反訴(UPC_CFI_1152/2025)および被告1が提起した特許無効反訴(UPC_CFI_752/2026)の取下げを許可し、各訴訟手続の終了を宣言する。
3. 特許侵害訴訟の裁判所手数料の50%に相当する12,000ユーロを原告に還付する。
4. 被告2の特許無効反訴の裁判所手数料の50%に相当する10,000ユーロを被告2に還付する。
5. 被告1の特許無効反訴の裁判所手数料の50%に相当する13,250ユーロを被告1に還付する。
6. 本訴および各無効反訴の訴額(Value in dispute)を、それぞれ2,000,000ユーロと定める。
7. 本決定を登録簿に登録する。

3. 主な争点

  • 争点1: 訴訟の取下げ(RoP Rule 265)の可否および訴訟費用負担決定(Cost Decision)の要否
    書面手続終結前における当事者双方の合意に基づく取下げの可否、ならびに当事者双方が費用決定を求めない旨を合意している場合における費用裁判の要否。
  • 争点2: 裁判所手数料の還付(RoP Rule 370.11 / Rule 370.9(b))の可否および明白な誤記(Clerical Error)の職権補正
    書面手続終結前の取下げに伴う手数料50%還付の適用、ならびに還付申請書における当事者名の誤記および還付請求額の計算誤記に対する裁判所の補正の可否。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. 訴えの取下げおよび費用裁判の要否(争点1について)
裁判所は、当事者間の相互合意に基づき、RoP Rule 265を根拠として本訴および各無効反訴の取下げを許可した。
また、本件訴訟が全面的に取り下げられ、かつ全当事者が費用裁判を求めない旨を明示的に表明していることから、UPC控訴裁判所(Court of Appeal)の確立した先例(UPC_CoA_840/2024決定パラ11、UPC_CoA_520/2024決定パラ10)に従い、訴訟費用の負担に関する裁判を行う必要はないと判断した。

2. 裁判所手数料の還付および誤記の職権訂正(争点2について)
書面手続終結前における取下げであるため、2026年1月1日施行のRoP Rule 370.11およびRule 370.9(b)に基づき、各当事者に対して納付済み手数料の50%を按分還付することを認めた。
その際、申請書に以下の明白な誤記が存在したため、裁判所は職権でこれを訂正した:

  • 被告2が提起した反訴(UPC_CFI_1152/2025)の手数料還付申請において、申請者として誤って「被告1」と記載されていた点について、明白な誤記として訂正し、正当な還付権利者である「被告2」に対して還付を命じた。
  • 被告1が提起した反訴(UPC_CFI_752/2026)において、被告1が「納付額の50%の還付」を正当に求めつつも、実際の納付額(26,500ユーロ)の50%(13,250ユーロ)ではなく、誤って「10,000ユーロ」と過少に記載していた点について、明白な誤記であると認定し、50%相当額である13,250ユーロの還付を認めた。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

1. 和解・早期終結時における裁判所手数料の還付実務(RoP Rule 370の活用)
UPC手続においては、書面手続の終結前に訴えを取り下げることで、納付済み手数料の50%の還付を受けることが可能である(RoP Rule 370.9(b))。本件は、本訴原告のみならず、別個に無効反訴を提起した複数の被告に対しても、それぞれの納付額に応じた50%還付が厳格に適用される実務基準を示している。

2. 訴訟費用決定(Cost Decision)の免除手続の明確化
UPCでは原則として訴訟終結時に費用の負担割合を決定するが、全当事者が費用の決定を求めない旨を合意・表明している場合には、裁判所は費用決定を省略できる(控訴審判例の追認)。和解契約等において費用自己負担の合意が成立している場合の実務処理モデルとして重要である。

3. 申請書面の明白な誤記(Clerical Error)に対する裁判所の裁量補正
還付申請における当事者名の取り違えや計算額の記載ミスについて、裁判所が申請の客観的趣旨(納付手数料の50%還付を求める旨)および訴訟記録に基づき、形式的な記載にとらわれず職権で是正した点は、手続経済および当事者保護の観点から実務上参照すべき判断である。

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