1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
(1)当事者および対象特許
・原告/控訴人(UPC-CoA-692/2025):Nera Innovations Ltd.(アイルランド法人)
・被告/控訴人(UPC-CoA-854/2025):Xiaomi Communications Co., Ltd. ほか3社(Xiaomiグループ)
・対象特許:欧州特許第2 642 632号(EP 2 642 632)
(2)手続の経緯
・第1審(ハンブルク地方部、事件番号:UPC-CFI-173/2024およびUPC-CFI-424/2024)は、2025年7月10日付判決において、原告の特許侵害請求を棄却するとともに、被告による無効反訴を一部認容し、本件特許につき補助請求1および2に基づくクレーム1の範囲を超える部分を無効と判断した。
・原告は侵害請求棄却に対して控訴を提起し(UPC-CoA-692/2025)、被告らも無効反訴の判断に対して控訴を提起した(UPC-CoA-854/2025)。
・その後、当事者間で裁判外の和解(außergerichtlicher Vergleich)が成立したため、双方は統一特許裁判所手続規則(RoP)第265条に基づき、それぞれの控訴を取り下げる旨の申立てを行い、互いに相手方の取下げに同意するとともに、訴訟費用の負担に関する申立ても行わない旨を合意・通知した。
2. 判決の主文
I. 各控訴の取下げを許可する。
II. 本件各控訴手続の終了を宣言する。
III. 本決定を登記簿(Register)に登録する。
3. 主な争点
- 争点1: 控訴審における統一特許裁判所手続規則(RoP)第265条(訴えの取下げ)の適用可否
- 争点2: 当事者双方が費用請求を行わない旨合意している場合における費用決定(RoP第265.2条(c))の要否
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
(1)控訴の取下げに関する判断(争点1)
RoP第265条は、訴訟について終局判断が下される前であれば原告が訴えを取り下げることができる旨を定めている。同規定は控訴の取下げ(Rücknahme einer Berufung)にも適用される(先例:UPC-CoA-895/2026ほか、2026年3月6日付決定・Black Sheep / HL Display事件参照)。
本件では、各控訴人が相手方の同意を得て取下げを申し立てており、被控訴人側に取下げを妨げるべき対立利益も認められない(当事者間において裁判外和解が成立している)ことから、裁判所は双方の控訴の取下げを許可し、手続を終了させると判断した。
(2)費用決定の要否に関する判断(争点2)
RoP第265.2条(c)は訴えの取下げに伴う費用決定(第1部第5章に基づく)を行う旨を規定している。しかしながら、本件においては双方が訴訟費用の負担を求めない旨合意しているため、裁判所による訴訟費用の裁判を行う必要はないと判断した。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
(1)RoP第265条の控訴審への準用実務の定着
第1審の訴え取下げを規定するRoP第265条が、控訴審における控訴取下げ手続にも直接的に適用可能であることが、既往の判例(Black Sheep事件等)を踏襲する形で再確認された。
(2)和解時における訴訟費用判断の免除処理
UPC実務上、RoP第265.2条(c)により原則として裁判所による費用負担命令が予定されているが、当事者双方が和解等により費用申立てを行わない(各自自己負担とする等)旨で合意している場合には、裁判所による別段の費用決定を省略して手続を終結させることが可能である点が示されており、実務上迅速な和解終結を図る際の重要な指針となる。
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