1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
(1)当事者及び対象特許
本件は、被控訴人(第一審申立人)ESSITY HYGIENE AND HEALTH AKTIEBOLAG(以下「ESSITY」)が保有する欧州特許(EP 3 289 139)に基づき、控訴人(第一審相手方)WEPA NEDERLAND B.V.(以下「WEPA」)に対して申し立てた証拠保全等の手続から派生した控訴事件である。
(2)事実経過
ESSITYは、統一特許裁判所(UPC)ハーグ地方部に対し、手続規則(RoP: Rules of Procedure)第192条に基づく証拠保全および第199条に基づく検証の命令を申し立てた。ハーグ地方部は2026年4月17日、申立てを認容する証拠保全命令を発出した。WEPAは同決定の再審査(review)を求めたが、ハーグ地方部は2026年6月22日に原命令を維持(確認)する決定を下した。
これを受け、WEPAは2026年6月22日付決定に対してUPC控訴裁判所に控訴(RoP 220.1(c)条)を提起した。その際、裁判所の事件管理システム(CMS: Case Management System)の指示に従い、控訴手数料として14,600ユーロを納付した。
(3)WEPAの請求・主張
WEPAは、本件控訴における正当な控訴手数料は5,000ユーロであると主張し、過大納付となった裁判所手数料の還付(Reimbursement)を申し立てた。
2. 判決の主文
書記官に対し、WEPAに対して9,600ユーロを還付することを命ずる。
3. 主な争点
- 争点1: UPC協定(UPCA)第60条・第61条に基づく証拠保全等の暫定措置決定に対する控訴手数料の算定方法および訴額ベース費用の要否
- 争点2: システム(CMS)指示により過大納付された控訴手数料の還付義務の有無
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
(1)固定費用の適用基準(RoP 228条、裁判費用額表Table IV)
裁判所は、RoP第228条に基づき、控訴人は裁判費用額表(Table of Court Fees)Part 6に従い固定費用(fixed fee)および該当する場合は訴額ベース費用(value-based fee)を納付しなければならないと指摘した。2025年11月4日付の改正裁判費用額表Table IVに基づき、UPCA第60条または第61条に定める命令(証拠保全・検証等)に関するRoP 220.1(c)条の控訴に適用される固定費用は5,000ユーロである。
(2)訴額ベース費用の要否(Table V、先行決定の法理)
第一審は原決定において手続の訴額(value of the proceedings)を明示的に定めていなかったが、CMS上の第一審における見込み訴額は400,000ユーロとされていた。裁判所は、裁判費用の算定にあたっては当該金額を基準とすべきであると判示した(先例:UPC-CoA-68-72/2026 Qualcomm v NST 参照)。
裁判費用額表Table Vによれば、訴額が500,000ユーロ以下の事案については追加の訴額ベース費用は発生しない。
(3)当てはめおよび結論
したがって、本件控訴についてWEPAが支払うべき正当な裁判所手数料は固定費用の5,000ユーロのみである。WEPAが納付した14,600ユーロとの差額である9,600ユーロは過大納付にあたり、書記官にその還付を命ずる。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
(1)CMSの自動計算・指示に対する注意義務
UPCの実務において、事件管理システム(CMS)上で自動提示される手数料額が、暫定措置(UPCA 60/61条)特有の減額・固定枠や訴額テーブルと整合せず過大に算出されるケースが確認された。代理人としては、CMSの指示額を盲目的に信頼せず、RoPおよび裁判費用額表の個別規定に照らして正当な金額を精査し、過誤がある場合には速やかに還付(Reimbursement)を申し立てる実務対応が重要となる。
(2)未確定訴額の算定基準(Qualcomm事件法理の踏襲)
第一審で正式に訴額決定(RoP 370条等)がなされていない中間命令・保全命令に対する不服申立であっても、CMS上の見込み訴額を基礎として訴額ベース費用の有無(500,000ユーロの閾値判定)を判断するという先行実務(Qualcomm v NST)の法理が再確認された点に判例上の意義がある。
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