【UPC Local Division Milan / 2026年07月21日】UPC_CFI_703/2025, UPC_CFI_1757/2025 - PRNOTH S.p.A. v. XELOM s.r.l.(進行管理命令:証拠調べ・鑑定人解任・無効主張および予備的補正の削減指示)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、原告PRNOTH S.p.A.(以下「Prinoth」)が、被告XELOM s.r.l.(以下「Xelom」)に対し、自社が保有する欧州特許EP 2507436(以下「EP '436」)およびEP 1995159(以下「EP '159」)の侵害を主張して提起した本案訴訟およびそれに伴う証拠収集・保全手続である。

【事実経過】
・2025年2月24日、PrinothはUPC条約(UPCA)第60条および手続規則(RoP)Rule 192等に基づき、査察・証拠保全・差押えの暫定措置(inaudita altera parte)を申立て。同3月18日、裁判所は命令を発令し、裁判所専門家(Court Expert)としてAntonio Di Bernardo技師を指名。
・2025年4月2日、査察が執行され、Xelom製の圧雪車(Snow Cat、シリアル127348687)が差し押さえられた。
・本案訴訟において、Prinothは前段階で収集できなかった重要証拠(制御ソフトウェア、重量測定、技術・商業文書等)につき、RoP Rule 170.2、190、201に基づく追加の証拠提出命令、実物検査、および裁判所実験の実施を請求した。
・これに対しXelomは、侵害を否定するとともに特許無効の反訴(Counterclaim for Revocation)を提起し、100を超える極めて多数の無効主張(新規性・進歩性・記載不備・追加事項等)を展開した。
・Prinothは反訴に対し、予備的請求として特許法規に基づく訂正(Auxiliary Requests: EP '159について5件、EP '436について6件)を提出。Xelomはこれらに対しても大量の無効・不許理由を対抗させた。

本決定は、訴訟進行管理判事(Judge Rapporteur)が裁判官パネルの意見を聴取した上で、訴訟進行管理権限(Case Management Power)に基づき、証拠調べ手続の決定および当事者の攻撃防御方法の絞り込みを命じた進行管理命令(Order)である。

2. 判決の主文

1. 被告工場における差し押さえ車両の実物検査および各輪・軸荷重の測定実験(Court Expert: Di Bernardo技師指揮)の実施を認める。
2. 被告に対し、制御ソフトウェアの技術仕様書の任意提出およびソースコードの複製・提示を命じ、IT専門家(Court Expert: Borra氏)による段階的な開示・鑑定手続を認める。
3. Prinothによる広範囲な追加技術文書および商業文書の提出命令請求を棄却する。
4. 裁判所の案件管理権限に基づき、当事者に対し、無効攻撃理由(Invalidity Attacks)および予備的補正請求(Auxiliary Requests)の数を大幅に削減・絞り込むことを命じる(提出期限:専門家報告書提出後の2026年10月31日)。
5. 中間協議(Interim Conference)を2026年11月25日に、口頭審理(Oral Hearing)を2027年1月26日に指定する。

3. 主な争点

  • 争点1: 証拠調べ(実物検査・実験実施・ソフトウェアおよび文書提出命令)の必要性と比例性の有無(Rules 170.2, 185, 186, 190, 201 RoP)
  • 争点2: 企業秘密(ソースコード等)の保護と対審構造(Confidentiality Club / Rule 262A RoP)の維持
  • 争点3: Case Management Powerに基づく無効攻撃理由および予備的訂正請求(Auxiliary Requests)の制限指示の適法性と範囲
  • 争点4: 進歩性および等価侵害判断における主張規範(UPC Approach)の設定

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. 重量測定実験および実物検査の可否(EP '159関係)
・重量分布に関する既存書類(シミュレーション結果)は実測値ではなく、不充分である。車両の各輪荷重の測定実験(Rule 201 RoP)および検査は、特許侵奪の有無を解明するために必須かつ比例的(proportional)である。
・実施期間は2026年9月7日〜18日とし、費用は原告Prinothの予納。検査・実験終了後、差押車両の差し押さえは解除される。

2. ソフトウェア・ソースコードの提出と開示手続(EP '436関係)
・請求項7等の制御ロジック(流量要求の計算、変容量ポンプの制御等)を確認するには、ハードウェア構成の確認だけでは不十分であり、ソフトウェアの検証が不可欠である。
・ただし、被告の営業秘密を保護するため、段階的開示手続(Tiered Disclosure)を採用する。
 ① 第1段階:被告が自主的に提出する機能仕様書・技術文書のみをCourt Expertおよび両当事者の専門家(CTP)が精査する。
 ② 第2段階:第1段階で解明できない場合に限り、Court Expertが複製したソースコードから該当する論理部分のみを抽出し、指定された「秘密保持クラブ(Confidentiality Club)」の構成員(厳格に制限された訴訟代理人およびIT専門家)にのみ限定開示する。

3. 商業文書および過大な技術文書提出請求の棄却
・契約書等の商業文書は損害賠償額算定(段階的審理の後段階)で考慮すべきものであり、現時点では不要。また、包括的すぎる追加技術文書請求は重複であり不要として棄却。

4. 主張・立証の絞り込み指示(Case Management Power)
・UPCにおける審理の「早期集中的推進(Front-loaded principle)」および迅速・公平の原則に照らし、無制限な主張・立証は許されない。
・Rule 30.1(c) RoP(予備的補正数は合理的な範囲内でなければならない)およびUPC判例法規(過剰な無効主張は判断を要しないとする裁判所の権限)に基づき、以下の通り主張の整理・限定を命じた:

  • EP '159について:原告の予備的補正(AR)を最大3件に制限。被告の無効主張を、主請求(MR)および各ARに対し「新規性欠如3件・進歩性欠如3件」までに限定。
  • EP '436について:原告の予備的補正(AR)を最大4件に制限。被告の無効主張を、主請求(MR)および各ARに対し「新規性欠如4件・進歩性欠如4件」までに限定。
・なお、専門家の鑑定結果を踏まえて主張を修正できるよう、この絞り込みメモランダムの提出期限は専門家報告書が出された後の2026年10月31日とした。

5. 進歩性および等価侵害の主張規範
・当事者に対し、従来のEPO方式(Problem-Solution Approach)に加え、UPC控訴審判例(UPC_CoA_528/2024等)に基づく「UPC approach」に則った進歩性の主張を提示することを命じた。また、等価侵害の成立についても依拠する具体的判断基準(test di contraffazione per equivalenti)を明示するよう求めた。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

① UPCにおける強力なCase Management Powerの運用実務
UPCでは、当事者が提出する無効主張(Prior Artの過剰な組み合わせ)や大量の予備的訂正(Auxiliary Requests)に対し、裁判所が裁量で上限(例:1主張・1請求あたり3〜4件程度)を設定し、強制的に主張を絞り込ませる実務が定着しつつある。本決定は、ミラノ地域分部がこのUPC確立判例を厳格に適用した好例である。

② ソースコード等の機密情報に対する階層的開示プロトコル
競合他社間の訴訟における高度な技術秘密(ソースコード等)の開示にあたり、裁判所指定専門家(Court Expert)をハブとし、「仕様書等による検討(Phase 1)→ 必要なコード断片のみの抽出・Confidentiality Clubへの限定開示(Phase 2)」という2段階プロトコルを提示した。技術侵害訴訟における証拠開示と機密保護の保全措置として実務上非常に参考となる。

③ 「UPC Approach」への対応要請
進歩性判断において、単にEPOのProblem-Solution Approach(課題解決アプローチ)を機械的に適用するだけでなく、UPC独自のアプローチ(先行技術からの当業者の教示・動機付けを総合的に考慮するアプローチ)および明確な等価侵害テストの適用を要求している。UPCにおける書面作成・主張立証においては、UPC控訴審(CoA)の最新法理に適合させた組み上げが不可欠である。

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