【UPC地方分庭(ミュンヘン) / 2026年07月27日】UPC_CFI_1746/2026, UPC_CFI_1747/2026 - 査証・証拠保全決定(Ex Parte)に対する再審査申請および秘密保持体制の追加変更命令

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

当事者:
申請人(特許権者):Reinhausen GmbH(ドイツ法人。変圧器の負荷時タップ切換器技術に強みを持つ企業)
被申請人(相手方):Shanghai Huaming Power Equipment Co., Ltd.(上海華明電力設備。中国法人)

主要な事実経過:
申請人は、欧州特許第3 427 283号(EP 3 427 283 B1「負荷時タップ切換器用選別器」)の単独所有者である。
2026年5月19日〜21日にベルリンで開催された電機・絶縁技術の国際見本市「CWIEME」において、被申請人はブースを出展し、タップ切換器製品(製品名:「DET-24kV」)を展示した。
申請人は、本案訴訟の提起に先立ち、統一特許裁判所協定(UPCA)第60条およびUPC手続規程(RoP)第192条に基づき、被申請人の見本市ブースにおける製品の査証(分解・計測・撮影等)および証拠保全の緊急命令(Ex Parte / 一方的決定)を申請した。
ミュンヘン地方分庭は2026年5月20日、被申請人への事前の審問を行わずに、専門家・執行官・申請人代理人立会いのもとでの査証・証拠保全命令(以下「原決定」)を発令し、同日、見本市会場で執行(製品の押収等)された。

手続の経緯および請求内容:
被申請人は2026年6月19日、RoP第197条3項に基づき、原決定の再審査(Review)を申請した。被申請人は査証・証拠保全自体の許容性ではなく、原決定における秘密保持体制の不備(申請人代理人や第三者に対する秘密保持義務の欠如、専門家への不当な接触制限の追加等)を理由として、原決定の変更および補充を求めた。
申請人は、一般原則や原決定の解釈により秘密保持は担保されているとして、請求の棄却を求めた。

2. 判決の主文

裁判所は、被申請人の再審査申請を一部容認し、原決定(2026年5月20日付)を以下のとおり変更・補充した。

  1. 原決定第10項の変更(立会代理人の秘密保持義務の明記): 裁判所選定の専門家・補助者・執行官に加え、「査証に立ち会った申請人の訴訟代理人(弁護士・特許弁護士)」に対しても、査証過程で認識した被申請人の事業上の秘密について、申請人自身・その従業員・第三者に対して開示・漏洩することを禁止する(裁判所または被申請人による解除決定がある場合を除く)。
  2. 原決定第12項の変更(専門家報告書アクセス時の情報制限): 申請人代理人が専門家の作成した記述報告書にアクセスする際、裁判所による最終的な開示決定前に、当該情報を申請人・その従業員・第三者に開示してはならない旨を明記する。
  3. 原決定への追加(合意事項): 申請人、その代理人および関係者は、鑑定対象物および作成される報告書に関して専門家と直接コミュニケーションをとってはならない。専門家は裁判所の新たな命令がない限り、追加調査を行えず、対象物は現状のまま維持される。
  4. その他の申請(費用決定等)は棄却し、原決定の残部を維持する。

3. 主な争点

  • 争点1: [手続上の許容性] 査証・証拠保全命令そのものの取消ではなく、秘密保持措置(手続態様)の追加・変更のみを対象とする再審査申請(RoP Rule 197.3)の許容性と訴えの利益
  • 争点2: [実体上の秘密保持義務] 一方的(Ex Parte)査証手続において、裁判所が負う秘密保持担保義務(UPCA Art. 60(1))の範囲と、査証に立ち会った申請人代理人(弁護士等)に対する秘密保持命令の要否
  • 争点3: [主張立証責任] 見本市での展示物に関する秘密性の消滅の有無、および再審査手続段階において被申請人が具体的営業秘密を個別に主張・立証する必要性の有無

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) 再審査申請の許容性および訴えの利益(争点1について)

RoP第197条3項に基づく再審査申請は、執行から30日以内に提出されており適法である。
被申請人が査証命令そのものの要件(侵害の蓋然性等)を争わず、秘密保持措置の補強のみを求めている場合であっても、秘密保持は査証手続(UPCA第60条1項、RoP第196条1項・第197条3項)の中核要素であり、独立した対象として再審査の対象とすることができる。また、原決定の文言上、申請人代理人に対する直接の秘密保持義務が明確でなかった以上、被申請人には決定変更を求める補正上の権利保護の利益(訴えの利益)が存在する。

(2) 一方的査証手続における裁判所の秘密保持義務と代理人の受忍義務(争点2について)

UPCA第60条1項および第58条は、裁判所に対して機密情報の保護を義務付けている。相手方(被申請人)の審問を経ずに発令される一方的手続(Ex Parte)においては、相手方が事前に秘密保護の申立てを行うことが不可能であるため、裁判所は原則として職権で機密保護措置を命じる義務を負う(例外的に秘密性が存在しないことが明白な場合を除く)。
原決定第10項において、専門家等には秘密保持義務を課していたものの、査証現場に同席した申請人代理人(弁護士・特許弁護士)に対する直接の秘密保持義務の記載を欠いていたのは裁判所の「不注意による不備(誤り)」であった。
査証の現場では、特許侵害の判断には直接関係のない被申請人の技術的・事業的詳細(無関連な営業秘密)が代理人の目に触れるリスクがある。専門家による「報告書(Beschreibung)」の作成・開示手続(原決定第12項・13項)とは別に、査証の実施そのものの過程で得た知見について、代理人が自発的に依頼者(申請人)や第三者に開示することを禁ずる独立した秘密保持命令が必要である。

(3) 見本市展示物と営業秘密性、および再審査段階における立証負担(争点3について)

見本市展示と秘密性: 被申請人の製品が見本市に展示されていたとしても、当該製品はアクリルガラスで囲われ、ハウジングに覆われていた。内部構造を物理的に分解・開放して初めて明らかになる技術的詳細については、見本市展示によって秘密性が喪失したとはいえない。
被申請人の主張立証負担: 再審査手続段階において、被申請人がどの具体情報が営業秘密に該当するかを特定して主張・立証する必要はない。なぜなら、被申請人は査証時に申請人代理人が具体的にどの非公知情報を認識したかを正確に把握し得ないからである。侵害判断に関わる情報については、後に専門家報告書が開示される手続(RoP第190条/原決定第13項)の中で主張すれば足り、それ以外の無関係な秘密情報が申請人側に流入するのを防ぐため、包括的な秘密保持命令をそのまま維持・補強するのが手続的正義およびプロセスの効率性に合致する。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • UPC査証手続(Ex Parte)における標準的秘密保持ドラフティングの指針:
    本決定は、UPC実務において一方的査証(Ex Parte Preservation Order)を発令する際、裁判所が「査証に立ち会う弁護士・特許弁護士」個人に対しても、依頼者(特許権者)本体への情報開示を禁じる秘密保持義務(Black-out/Confidentiality Club類似の規律)を明確に命じなければならないことを確定させた。申立側・相手方双方の実務家は、決定文の秘密保持条項に代理人自身が含まれているかを厳格に確認する必要がある。
  • 専門家報告書(Report)と「現場での認識情報」の二層的保護:
    UPC手続では、専門家が作成する「報告書」の開示手続(RoP 196.1, 197.6)による保護と、査証現場で代理人が直接目撃・測定して得た「生の情報」の保護は別次元として扱われる。報告書に記載されない(特許侵害とは無関係な)営業秘密の漏洩リスクに対処するため、現場での観察情報に対する直接の不開示命令が不可欠となる。
  • 展示会・見本市(Trade Fair)における査証の留意点:
    展示会で公に展示されている製品であっても、外観から容易に観察できない内部構造や、分解によって初めて露呈する構成については、営業秘密性が維持される。したがって、「見本市展示品だから秘密性がない」という反論はUPCにおいては容易に認められない。
  • 専門家(Expert)の中立性と接見制限:
    査証手続完了後、裁判所が委任した専門家に対して、申請人側が一方的に接触・質問を行うことは厳格に禁止される。本判決の合意補充規定に見られるように、専門家の独立性を担保するための通信禁止命令および追加調査の制限が実務上重視される。

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