1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
本件は、原告Cardo Systems, Ltd.(以下「Cardo」)が、被告Shenzhen Ziwu Chuangxin Technology Co., Ltd.(中国法人、以下「Ziwu」)およびResosport Limited(香港法人、以下「Resosport」、両被告を総称して「Reso Group」)を相手取り、特許権侵害訴訟(本訴)を提起した事案である。両当事者間では並行して仮処分(PI)手続も進行中であった。
主要な事実経過は以下の通りである。
- 2025年12月8日: Cardoが本訴を提起。
- 2026年4月23日: Ziwuに対する送達が完了。UPC手続規則(RoP)R. 23に基づき、Ziwuの答弁書(Statement of Defence)および無効反訴の提出期限は2026年7月23日(3か月)に設定された。
- Resosportへの送達状況: 香港でのヘーグ条約に基づく通常送達手続が進行中であり、送達は未完了であった。
- 2026年6月30日: Ziwuは送達効力発生日の一元化(alignment)および答弁書提出期限の変更を申請。期限が揃えばResosportが訴状の送達を自発的に受領する旨を申し出た。
- 2026年7月10日: 法定助言者(Judge-rapporteur)はRoP R. 9に基づき、全被告について2026年6月10日を擬制的な共通起算日(notional common starting date)と定め、答弁書等の提出期限を2026年9月10日に設定する決定(Order)を発した。これを受け、Resosportは即時に送達を受領した。
- 2026年7月20日: CardoはRoP R. 9.3、R. 333およびR. 334(a)に基づき、上記決定の再審理(Application for review)および期限短縮を請求した。
2. 判決の主文
Cardo Systems, Ltd.が提出した再審理(Application for review)および期限短縮の請求を棄却する。
3. 主な争点
- 争点1: 複数被告ケースにおける送達日の不一致に対し、裁判所がRoP R. 9に基づき「擬制的共通起算日」を設定し、一方の期限延長と他方の期限短縮(自発的受領)を組み合わせるケースマネジメントの適法性・妥当性
- 争点2: 並行する仮処分手続の代理人が本訴の送達受領権限を与えられていない場合において、受領拒否等の不誠実な訴訟行動(不当な戦術)が存在するとの主張に基づき、裁判所が代理人に送達受領を強制できるか(RoP R. 271.1(c)の解釈)
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
合議体(Panel)は、以下の論理に基づき裁判官報告者(Judge-rapporteur)の決定を維持し、Cardoの再審理請求を棄却した。
1. 秩序ある効率的な訴訟管理と実質的バランスの確保(争点1について)
ヘーグ条約に基づくResosport(香港)への送達完了時期は不透明であった。仮に2026年7月29日に送達が完了した場合、Resosportの答弁書提出期限は同年10月29日となるはずであった。
裁判官報告者が設定した2026年6月10日を起算日とする決定は、Ziwuの提出期限を約50日延長する一方で、Resosportの提出期限を約50日大幅に前倒し(短縮)させる結果をもたらした。
この措置は、複数被告間での著しい手続的ズレ(misalignment)やこれに伴う手続分離(bifurcation)等の混乱を回避し、予測可能性を確保した上で、訴訟をより秩序正しく効率的に進行させるための均衡の取れた妥協策(balanced compromise)として正当化される。
2. 訴訟代理人に対する送達強制権限の不在(争点2について)
Cardoは被告側の送達受領拒否を「戦術的な手続濫用」と主張するが、RoP R. 271.1(c)の文言は明確であり、代理人が裁判所または原告に対し被告に代わって送達を受領する旨を電子アドレスとともに通知した場合にのみ電子送達が行われる。
裁判所には、仮処分手続で選任されている代理人に対し、本訴における送達を受領するよう強制または要求する法的権限(power to require or compel)は存在しない。したがって、被告側の手続上の選択が純粋に戦術的(purely tactical)なものであったとしても、上記1の裁量判断の結果には影響を及ぼさない。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
1. 複数被告(EU域外管轄を含む)事件におけるケースマネジメント(RoP R. 9)の柔軟な運用
本決定は、送達時期が異なる複数被告が存在する場合、裁判所がRoP R. 9に基づく広範なケースマネジメント権限を行使し、「一方の期限延長」と「他方の自発的受領による期限前倒し」を組み合わせた「擬制的起算日」を設定することを容認した。これにより、手続の二分化を防ぎ、効率的な一括審理を優先する裁判所の姿勢が明確となった。
2. 仮処分と本訴における代理権限の分断と送達の実務(RoP R. 271.1(c))
並行する仮処分手続で代理人に就任している弁護士であっても、本訴についての送達受領権限が明示的に授与されていない限り、裁判所が送達受領を命じることはできないことが再確認された。被告側がこの仕組みを期限延長の交渉材料として戦術的に利用したとしても、直ちに不適法とされるわけではない。
3. 原告側の訴訟戦略上の留意点
原告実務においては、EU域外(ヘーグ条約適用国等)の企業を被告に含める際、通常送達に時間を要するリスクを織り込む必要がある。仮処分手続の段階で本訴の送達受領権限に関する合意を取り付けるか、送達遅延に伴い合意に基づく期限調整(擬制起算日の設定など)が裁量でなされるリスクを考慮した手続スケジュールを策定することが求められる。
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