1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
当事者関係:
原告:KEEEX SAS(欧州特許 EP 2949070[以下「EP 070特許」]の権利者)
被告:ADOBE SYSTEMS SOFTWARE IRELAND LTD, ADOBE INC., OPENAI OPCO LLC, OPENAI IRELAND LTD, TRUEPIC INC., JOINT DEVELOPMENT FOUNDATION PROJECTS LLC, COALITION FOR CONTENT PROVENANCE AND AUTHENTICITY (C2PA)
事実経過および手続きの経緯:
1. 原告KEEEXは、EP 070特許に基づき、被告らに対して統一特許裁判所(UPC)第一審パリ地方支部に特許権侵害訴訟を提起した。
2. 本訴の追行中、手続判事(Juge-rapporteur)は2026年6月25日、被告からの各種申請(UPC手続規則[RdP]R. 9.2, R. 36, R. 263に基づく)に対し、以下の決定(「原決定」)を下した:
- KEEEXによるR. 30.2 RdPに基づく特許の追加補正(事後補正)請求を不許可。
- KEEEXが侵害対象として新たに追加した製品(「Truepic Lens」および「Script Truepic Display」)について、R. 263 RdPに違反する不許容な「請求の変更(changement de demande)」であると判断。
- KEEEXの2026年6月5日付準備書面のセクションV(侵害)およびVI(措置)に含まれる新規の主張・証拠を遅延提出(tardifs)としてR. 9.2 RdPに基づき原則排除(ただし、R. 36 RdPに基づき一部の対照表や対面回答等の記載のみ例外的に認容し、被告らに反論の機会を付与)。
4. 被告ADOBEも、原決定でKEEEXに例外的に認められた一部の表(乙号証等)の不排除決定の取消しを求め、一部再審理を請求した。その他の被告らはKEEEXの再審理請求の却下を求めた。
2. 判決の主文
1. KEEEXおよびADOBEが2026年6月25日決定に対して提起した再審理請求(demandes de révision)をいずれも却下する。
2. KEEEXのR. 36 RdPに基づく追加準備書面の提出許可請求を却下する。
3. 主な争点
- 争点1: 訴訟途中の追加の特許補正請求(R. 30.2 RdP)の許容性
被告の防衛(無効主張・釈明)に対抗するための特許補正が、「早期に提出できなかった客観的事情」を満たすか。 - 争点2: 訴訟途中の侵害対象製品の追加と請求の変更(R. 263 RdP)
被告の答弁書の内容を受けて侵害対象製品を追加することが、許容される手続的変更か、または遅延した不許容な請求の変更か。 - 争点3: 書面提出段階における適時提出原則(R. 9.2 RdP)と失権効
訴訟手続の特定の段階(無効反訴に対する認否段階)において、侵害論に関する主張・証拠を追加することの可否、および対審構造に基づく例外(R. 36 RdP)の適用範囲。
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
1. 争点1(R. 30.2 RdPに基づく追加の特許補正)について
合議体(Panel)は、UPC控訴審の既立判例(UPC_CoA_464/2024等 Meril v Edwards 決定)の定立した法的規範を再確認した。
【法的判断基準(規範)】
R. 30.2 RdPに基づく事後の特許補正の許容性は極めて例外的な場合に限られ、以下の2つの累積的条件を満たさなければならない:
- 当事者が「相当な注意(diligence raisonnable)」を払っても、より早い段階で当該補正を行えなかったこと。
- 当該補正が相手方の訴訟追行を不当に妨げないこと。
【本件事実への当てはめ】
KEEEXは「被告らの無効主張や用例の解釈に対抗し、用語の曖昧さを排除するために補正が必要となった」と主張するが、単に相手方の防衛・批判に対処したいという理由は、それ自体では「早期提出が不可能であった客観的事情」とは認められない。相手方の抗弁に法的論拠が欠けていると考えるのであれば、補正ではなくその不当性を論証すれば足りる。手続判事がKEEEXの事後補正申請を不許可とした判断は正当である。
2. 争点2(侵害対象製品の追加と R. 263 RdP)について
KEEEXは「被告TRUEPICの2026年5月5日付書面において初めて特定画像がTruepic Lensにより作成されたと認めたため、新製品を追加した」と主張する。しかし、KEEEXは訴状提出時に提示した公証人作成の事実実験結果(PV de constat)の段階で、当該製品に関する事実関係を把握し侵害主張を行うことが可能であった。被告の記載は自らの対象製品でないことを指摘したに過ぎず、新たな事実の開示ではない。したがって、この段階での製品追加は遅延したものであり、R. 263.2 RdP上の許容されない請求の変更にあたる。
3. 争点3(R. 9.2 RdPに基づく書面の失権効および R. 36 RdP)について
UPCの手続構造(R. 29(e) RdP等)上、反訴に対抗する原告の準備書面(6月5日書面)は、被告の無効反訴に対する反論・認否に限定されるべきであり、侵害(contrefaçon)に関する主張を新規・追加的に展開する段階ではない(侵害論においては被告が最後の反論機会を有する原則による)。
手続判事は単に機械的な手続流転の適用を行ったのではなく、各記載内容を精査し、攻撃防御権(対審構造)の保障に必要な最小限の記載(分析表等)のみを例外的にR. 36 RdPに基づき許容した。この判断は適正であり、双方の再審理請求(KEEEXの全面的許容請求およびADOBEの一部排除請求)およびKEEEXのさらなる追加書面提出請求はいずれも排斥される。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
1. 「Front-loading(主張・証拠の早期集中的提出)」原則の徹底:
UPC実務においては、特許権者(原告)は訴状提起時、被告は答弁書提出時に、主張・証拠を全面的に出し切ることが厳格に求められる。訴訟進行中に新たな事実や製品、クレーム補正を追加することは原則として許されない。
2. R. 30.2 RdP(事後補正)における高いハードル(Meril判例の定着):
控訴審判決(Meril v Edwards)で確立された「相当な注意を払っても早期提出不能であったこと」という客観的要件が、第一審で極めて厳格に適用されている。「相手方の無効論の批判に対処するためクレームを明確化する」という実務上よく見られる理由は、補正の正当化理由にならない点が強調された。
3. 手続進行段階に応じた主張権限の制限(R. 9.2 RdP):
原告が反訴(無効主張)への認否を行う段階の準備書面で、実質的な侵害論の補強を行うことは、相手方の不当な防御負担および手続の不当な遅延を招くため失権(排除)の対象となる。UPC実務家は、提出する書面ごとに「認められる主張のスコープ」を厳密に管理する必要がある。
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