1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
【当事者】
原告:Sun Patent Trust(米国・特許権者)
被告:Vivo Mobile Communication Iberia SL、Vivo Tech GmbH、Vivo Mobile Communication Co., Ltd.(以下、総称して「VIVO」)
【事実経過および請求内容】
原告は、LTE/LTE-Advanced規格に関する標準必須特許(SEP)である欧州特許第3,407,524号(EP 524)の特許権者である。原告は、被告らの4G+対応端末が本件特許のクレーム1(装置クレーム)およびクレーム7(方法クレーム)を侵害していると主張し、差止命令、情報提供、並びに損害賠償の中間判決(500万ユーロ)および費用(60万ユーロ)を求めて統一特許裁判所(UPC)パリ地方部に提訴した(本訴:UPC_CFI_362/2025)。
これに対し、被告VIVOは特許発明の構成要件(F1.1.1等)の不充足(非侵害)を主張するとともに、本件特許の無効反訴(反訴:UPC_CFI_001786/2025)を提起した。さらに、被告はEU機能条約(TFEU)102条および欧州司法裁判所(CJEU)の判例(Huawei v. ZTE事件)に基づくFRAND抗弁(独占禁止法違反に基づく差止拒絶の抗弁)を主張した。
2026年7月29日、受命法官(Judge-rapporteur)の主導のもとWebexにて中間協議(Interim Conference)が開催された。本命令は、UPC手続規則(RoP)規則105.5に基づき、中間協議における決定事項、口頭審理(Oral Hearing)の主要争点および具体的スケジュールを確定させたものである。
2. 判決の主文
受命法官は以下の通り命じた。
- 侵害訴訟の訴訟価額を500万ユーロ、無効反訴の訴訟価額を500万ユーロに設定し、本件の総訴訟価額を1,000万ユーロと確定する。
- 当事者は2026年8月28日までにCMS(ケースマネジメントシステム)を通じて以下の書面を提出しなければならない。
- 書面手続終了時における各自の請求の主文(operative parts)をまとめた統合書面
- 回収可能費用(recoverable costs)の金額に関する当事者間合意の確認書
3. 主な争点
- 争点1: 訴訟価額(Value of the case)の決定および回収可能費用の確定(RoP規則104(i)(j)(k))
- 争点2: 当業者(Skilled Person)の定義およびクレーム解釈(Claim Interpretation)
- 争点3: 本件特許の有効性(Validity)(親出願に対する新規事項追加/Added Matterの有無)
- 争点4: 特許権侵害の成否(Infringement)(VIVO製品によるクレーム1および7の充足性)
- 争点5: FRAND防訴および審理の公開・非公開性(FRAND defense & Confidentiality)(TFEU 102条、Huawei v. ZTE抗弁、原告請求A.IIの許容性、営業秘密保護のための非公開審理)
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
(1) 訴訟価額の設定(RoP規則104(i))
原告が主張する侵害訴訟の評価額(500万ユーロ)に対し被告が異議を唱えず、無効反訴も同額とすることに双方が合意した。これを受け、受命法官は全体の訴訟価額を1,000万ユーロと確定した。
(2) 技術的争点・当業者の定義(RoP規則104(a))
本件における当業者(Person skilled in the art)は、「モバイル通信の分野において数年の実務経験を有する修士号(または同等の学位)を保持するエンジニアであり、既存の技術・規格、特に3GPPのLTEおよびLTE-Advanced仕様に精通している者」と定義された。口頭審理においては、第1コンポーネントキャリアと第2コンポーネントキャリアの役割、CFI情報への限定の有無、PUCCHリソースの「設定/決定」、および「送信電力制御」に関する構成要件の解釈が重点的に審理される。
(3) 口頭審理の構成および非公開審理の採用(RoP規則104(a), 105.5)
FRANDライセンス交渉に関する主張・立証には機密情報が含まれるため、当事者双方が非公開審理を希望した。受命法官は、全容の的確な把握とオープンな議論を促進するため、口頭審理を以下のように段階的・ハイブリッド型で整理した。
- 1日目・2日目(公開審理):クレーム解釈、特許の有効性(親出願からの新規事項追加、新規性・進歩性)、および特許権侵害に関する審理。
- 3日目(非公開審理):原告請求A.IIの許容性、FRAND抗弁(Huawei v. ZTE)、差止等の措置の比例性(Proportionality)、損害賠償の中間判決(Interim Award)に関する審理。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
(1) SEP/FRAND訴訟における審理分離(公開/非公開)の実務確立
本命令は、UPCにおけるSEP訴訟手続において、技術的争点(技術的範囲・有効性)とFRAND争点(ライセンス交渉・金銭条件等)を時間・手続的に明確に区分し、後者について厳格な秘密保持を認めて非公開審理(Non-public hearing)を整理した点に実務上の重要な意義がある。これにより当事者は競業上の機密情報を開示しつつ十分な主張を行うことが可能となる。
(2) UPCにおける厳格なタイムマネジメントと受命法官の裁量
RoP規則104条および105.5条に基づき、受命法官が口頭審理のタイムテーブルを分単位(例:主張40分、反論5分等)で割り当てている。UPC実務においては、書面手続段階での主張の整理と、中間協議を通じた口頭審理の時間管理が徹底されるため、代理人弁護士・法務担当者は事前に付与された時間枠内で過不足なく口頭弁論を行う緻密な戦略が求められる。
(3) 訴訟価額の設定と弁護士費用回収上限の関係
訴訟価額が1,000万ユーロ(本訴・反訴合計)と確定したことは、UPCにおける過失責任原則に基づく訴訟費用償還ルール(RoP規則150条等、訴訟価額に応じて敗訴者が負担する回収可能費用の上限が決定される仕組み)に直接影響を与えるため、訴訟リスク管理上極めて重要な決定である。
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