1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
原告(LiNA Medical AG)は、欧州特許(EP 2 593 025 B1)の侵害を理由として、被告1(中国法人)、被告2(被告1に所在する個人)、および被告3(ドイツ法人)に対し、2026年1月19日付で統一特許裁判所(UPC)に特許権侵害訴訟を提起した。
被告1および被告2はUPC加盟国およびEU外である中華人民共和国に住所を有する。そのため、裁判所事件事務局(Registry)は、ハーグ送達条約(HSC)およびUPC手続規則(RoP)274条1項(a)(2)に従い、中国の中央当局を通じて訴状(Statement of Claim)の送達を試みた。
しかし、中国の権限ある当局から「受領者が文書の受領を拒否した(The recipient refused to accept the documents)」旨の通知がなされた。
これを受け、原告はRoP 275条に基づき、公示送達手続の発令および掲示30日後の送達効力発生を求める手続上の申請を行った。
2. 判決の主文
I. 本手続(UPC_CFI_209/2026)における訴状を被告1および被告2に了知させるために既にとられた措置は、RoP 275条2項に基づく「適正な送達(good service)」を構成する。
II. 送達は本決定の日付(2026年7月20日)をもって有効に効力を生じたものとみなす。
III. 本決定は、当事者名および事件番号とともに裁判所のウェブサイト上に公表される。
3. 主な争点
- 争点1: ハーグ送達条約に基づく送達において被告が不当に受領拒否した場合に、既になされた告知措置をRoP 275条2項に基づく「適正な送達(good service)」と認定できるか
- 争点2: 送達受領拒否に対し、裁判所がRoP 275条2項の決定を下す前に、再度の代替送達手続(RoP 275条1項)を命じる必要があるか
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
手続判事(Judge-rapporteur)は、以下の論理により、既になされた手続をもって適正な送達が完了したものと認めた。
1. RoP 275条2項の適用要件の充足
被告1および被告2に対する送達は、ハーグ送達条約締約国である中国への送達であるため、RoP第5部第2章第2節が適用される。RoP 275条2項は、原告の理由付申請に基づき、代替的方法または代替的場所により被告に訴状を了知させるために既にとられた措置を「適正な送達」と認める権限を裁判所に与えている。
2. 被告の受領拒否の性質と再度の代替送達の不要性
被告1および被告2は、訴状の内容を認識する公正な機会があったにもかかわらず、何ら理由を示すことなく、真摯かつ最終的に送達の受領を拒否した。このような受領拒否は、他の方法で送達を試みたとしても被告らが受領しないことを強く示唆している。したがって、RoP 275条2項に基づく決定を発令するにあたり、事前に代替送達の試行をさらに命じる(RoP 275条1項)必要はない(マンハイム地方分庭 2025年12月1日決定 Corning v. Caihong, UPC_CFI_820/2024 を参照)。
他に明白な代替送達の選択肢が存在しない本件においては、RoP 275条1項の適用余地はなく、原告への実効的な権利保護(effective legal protection)を確保する観点から、既にとられた措置をもって適正な送達と認めることが不可欠である(デュッセルドルフ地方分庭 2025年11月11日決定 Hewlett Packard v. Shenzen et al., UPC_CFI_515/2025 を参照)。
3. 被告国国内法(中国民事訴訟法)との整合性(RoP 275条4項)
RoP 275条4項の要件についても、中華人民共和国民事訴訟法第95条が「受領者の所在が不明な場合、または本節に定めるその他の手段で送達できない場合は公示送達(public notice)により送達を行うものとし、告示から30日経過後に送達完了とみなす」と規定していることから、代替送達手段としての許容性が満たされている。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
1. 非EU・ハーグ条約加盟国(中国等)の被告による受領回避行動への実務的対応の確立
本決定は、ハーグ送達条約経由での正当な送達手続に対し、被告が不当に受領拒否(refusal to accept)を行った場合、UPCが迅速にRoP 275条2項を適用して「既になされた措置をもって送達有効」とみなす運用の定着を示している。
2. 原告の訴訟遅延防止・実効的権利保護の優先
被告が意図的に受領を拒絶していることが明らかな場合、裁判所はRoP 275条1項に基づく追加の代替送達手続(公報掲載や郵送等)の実施を求めず、直ちに送達の有効性を認める。これにより、特許権者(原告)が送達トラブルによる不当な訴訟遅延を回避できる実務が明確化された。
3. 裁判所の決定日を送達効力発生日とする実務
原告は求釈明として「掲示から30日経過後の送達効力発生(公示送達手続)」を求めていたが、裁判所はRoP 275条2項に基づき「既にとられた告知措置(中国当局を通じた到達試行)」を適正送達と認定し、本決定の発令日(2026年7月20日)をもって直ちに送達効力を発生させた。これにより本案手続への移行が大幅に加速されることとなる。
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