【UPC控訴審 / 2026年07月22日】UPC-COA-63/2026, UPC-COA-64/2026 - 控訴審における追加補助的請求の許容性の先行判断および答弁書提出期限延長請求に関する決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、統一特許裁判所(UPC)控訴審における、特許権侵害・無効訴訟の控訴手続(訴訟進行上の決定:Order)である。

  • 当事者:
    • 控訴人(原告・特許権者):Advanced Brain Monitoring, Inc.
    • 被控訴人(被告・被疑侵害者):Koninklijke Philips N.V. 外2名
  • 対象特許: EP 2 437 696 B2(着用型姿勢療法装置に関する特許)
  • 原審の経緯(ハーグ地方分科会): 控訴人は、被控訴人の製品(NightBalance)が対象特許を侵害しているとして訴訟を提起。これに対し被控訴人は特許無効の反訴(Counterclaim for revocation)を提起した。第一審手続において、被控訴人が日本公開特許公報(JP H03-49748)に基づく進歩性欠如の抗弁を提出したため、控訴人は請求項1を限定する補助的請求1(Auxiliary Request 1)を提出した。原審裁判所(2026年3月3日付判決)は、特許権者の侵害請求を棄却し、本件特許(維持特許)の新規性欠如および補助的請求1の進歩性欠如を認め、特許を完全に取消(無効)とした。
  • 控訴審における追加補助的請求の提出: 控訴人は本判決を不服として控訴を提起し、控訴理由書(Statement of grounds of appeal)とともに、新たに11個の追加補助的請求(Additional auxiliary requests)を含む特許修正訂正申請を行った。控訴人は、これらは原審判決の判断ロジックに対する正当な防御手段であり、UPC協定(UPCA)第73条(4)およびUPC手続規則(RoP)Rule 222.2に基づき適法に受理されるべきと主張した。
  • 被控訴人の異議および申請: 被控訴人は異議を申し立て、(1) 追加補助的請求は控訴審において有効に提出されていない(不適法である)旨の先行判断(Preliminary determination)を求めた。また予備的に、(2) 仮に追加補助的請求が認容(Admitted)され得る場合、被控訴人の答弁書(Statement of response)および附帯控訴書(Statement of cross-appeal)の提出期限を、裁判所の許容性判決から3ヶ月後に設定するよう請求した。

2. 判決の主文

担当判事(Judge-rapporteur)は以下の通り決定した。

  1. 追加補助的請求の許容性(Admissibility)に対する被控訴人の異議についての判断は、控訴手続のより後の段階(実体審理と一体)まで保留する。
  2. 追加補助的請求の許容性に関する将来の決定日から3ヶ月間、答弁書および附帯控訴書の提出期限を定める旨の被控訴人の請求を棄却する。

3. 主な争点

  • 争点1:控訴審で新たに提出された追加補助的請求の許容性(Admissibility)について、本案審理に先立ち分離して先行決定すべきか否か
  • 争点2:許容性の先行判断を行わない場合において、被控訴人の答弁書(Statement of response)等の提出期限を延長すべきか否か

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. 争点1(追加補助的請求の許容性の先行判断の是非)について

控訴裁判所(担当判事)は、本手続段階において追加補助的請求がUPCA第73条(4)およびRoP Rule 222.2の要件を満たすか否かを判断することは不適切であると判示した。

  • 控訴審手続において、新たに提出された事実、証拠、先行技術文書、または手続上の申請(補助的請求等)の許容性判断は、原則として控訴手続全体(訴訟実体)の文脈の中で処理されるべきであり、特別な事情(particular circumstances)が存在しない限り、事前に個別に分離決定(separate determination)するものではない。
  • 新補助的請求の許容性評価は、控訴の具体的な経緯、第一審の判決理由、および第一審手続中に当該請求を提出することが合理的に可能であったか否かという点と密接に連動している。したがって、これらを適切に判断するには、訴訟手続の全履歴や双方の主張内容を総合的に審理する必要がある。
  • 本件においては、答弁書提出前に許容性のみを先行して決定しなければならないような「例外的な事情」は示されていない。したがって、許容性の異議に関する判断は、後の控訴手続段階に保留するのが妥当である。

2. 争点2(答弁書提出期限の延期請求の是非)について

裁判所は、被控訴人の期限延長請求を拒絶した。

  • 追加補助的請求の内容は控訴理由書とともに開示されており、被控訴人はその内容を完全に把握している。したがって被控訴人は、提出する答弁書の中で、「許容性に関する不適法性の主張(主的主張)」と「補助的請求の実体的な特許性に対する反論(予備的主張)」の両方を合わせて主張することが可能である。
  • 許容性の判断を後段階に保留することは、被控訴人に公正な防御の機会(fair opportunity)を奪うものではない。
  • 許容性判断のためだけに別個の手続段階(separate procedural phase)を設けることは、控訴審の手続の効率的な進行(efficient conduct)に寄与しない。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 控訴審における新請求(補助的請求)の許容性判断の手続的取扱い:
    UPC控訴審においては、控訴理由書で新たに提出された補助的請求(Auxiliary Requests)の適法性(UPCA 73(4) / RoP 222.2)について、原則として本案・実体審理から分離して先行決定(Bifurcation)することはないという基本方針が確認された。特別の事情がない限り、実体審理と一体的に判断される。
  • 被控訴人(被疑侵害者・無効請求人)側の訴訟実務上の留意点:
    被控訴人は「許容性の先行判断を求めて答弁期限を延期させる戦略」をとることは困難である。控訴理由書を受領した段階で、新補助的請求の不適法主張(訴訟要件・手続論)と、仮に許容された場合の実体論(新規性・進歩性等に対する認容性・無効論)の両方を、定められた答弁期間内に同時に準備・主張(主論および予備的論述)しなければならない。
  • UPC控訴審における訴訟経済の重視:
    UPC控訴審は、手続の重複や段階的な審理による不必要な遅延を回避し、迅速かつ効率的な手続進行(Efficient conduct of proceedings)を重視する姿勢を明確に示している。

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