1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
当事者:
控訴人(原告・特許権者):Advanced Brain Monitoring, Inc.
被控訴人(被告):Koninklijke Philips N.V. 外2名
事実経過および訴訟の経緯:
- 原審(ハーグ地方裁判所):控訴人は、着用型体位療法装置に関する欧州特許(EP 2 437 696 B2)に基づき、被控訴人らの製品(NightBalance)に対する特許権侵害訴訟を提起(UPC_CFI_43/2025および103/2025)。被控訴人らは侵害を否定するとともに、日本特許出願公開公報(JP H03-49748、以下「JP '748」)等を引用例として特許無効の反訴を提起した。控訴人は原審の書面手続において、請求項1に「加速度計」の構成を追加限定する「補助請求1(Auxiliary Request 1)」を提出した。
- 原審判決(2026年3月3日):原審は、維持された特許の請求項1はJP '748により新規性を欠き、補助請求1はJP '748および周知技術に基づき進歩性を欠くとして、侵害訴訟を棄却し、本件特許を全般的に取り消した。
- 控訴審の提起と追加補助請求の提出:控訴人は本件判決に対し控訴を提起し、2026年7月3日、控訴理由書(Statement of grounds of appeal)の提出とともに、原審判決の判断理由に対処するための11個の新たな追加補助請求(additional auxiliary requests)を含む特許訂正申請(UPCA 73(4)条およびRoP 222.2条に基づく)を提出した。
- 被控訴人の申請:被控訴人は2026年7月17日付の異議申出において、追加補助請求は控訴審において適法に導入されていないとして予備的決定(preliminary determination)を求めた。さらに予備的請求として、仮に追加補助請求が認容(許容)される場合、自らの応答答弁書(Statement of response)および附帯控訴状(Statement of cross-appeal)の提出期限を、裁判所の許容性決定の日から3ヶ月後に設定することを求めた。
2. 判決の主文
裁判官報告者(Judge-rapporteur)は以下のとおり命じる。
- 追加補助請求の許容性(admissibility)に対する被控訴人の異議についての判断は、控訴手続の後の段階に留保する。
- 被控訴人の異議に対する将来の裁判所の決定日から3ヶ月間に応答答弁書および附帯控訴状の提出期限を定めるという被控訴人の申請を棄却する。
3. 主な争点
- 争点1: 控訴審で新たに提出された特許訂正(追加補助請求)の許容性(Admissibility)について、被控訴人の応答答弁書提出前に予備的・先行的に判断すべきか否か(UPCA 73(4)条、RoP 222.2条)
- 争点2: 許容性に関する決定が行われるまで、被控訴人の応答答弁書および附帯控訴状の提出期限を延長・留保すべきか否か
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
1. 追加補助請求の許容性判断の先送り(争点1について)
- 規範の定立:控訴審手続において、新たに提出された事実、証拠、先行技術文献、または手続上の請求(補助請求等)の許容性に関する問題は、原則として控訴手続全体の中で一体として審理・判断されるべきであり、特別な事情(particular/exceptional circumstances)がない限り、事前に個別に判断することは通常行われない(§13, §14)。
- 当てはめ:補助請求の許容性評価(原審で合理的に提出できたか否か等)は、原審の手続経過、原審判決の理由、および当事者の双方の主張と密接に関連している(§11)。応答答弁書の提出前に許容性を先行決定しなければならないような「特別な事情」は提示されておらず、本件においては控訴手続の後段階で総合的に評価・判断することが適切である(§12, §15)。
2. 提出期限延長請求の棄却(争点2について)
- 被控訴人は追加補助請求の具体的な内容を既に認識しているため、応答答弁書において「許容性に対する手続的異議」と「予備的な実体論(特許性・進歩性等に対する反論)」の両方をあわせて記載することが十分に可能である(§16)。
- 許容性の判断を後段階に留保しても、被控訴人に公平な防御の機会(fair opportunity)を剥奪することにはならない。また、許容性のみを切り離した独立の手続段階を設けることは、訴訟手続の効率的な進行(efficient conduct)に寄与しない(§17, §18)。
- したがって、将来の許容性決定から3ヶ月間の期限延長を求める被控訴人の請求は棄却される(§19)。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
- 控訴審における訴訟運営の原則(手続の効率性):UPC控訴審においては、相手方から新規証拠や新規訂正(補助請求)の不適法(inadmissibility)の申し立てがあった場合でも、判決前に手続を分離して予備的決定を出すことにはきわめて慎重である。原則として控訴本案審理において一括して判断される。
- 被控訴人(特許権侵害の被告側)の書面作成実務:控訴人が控訴審で新たな補助請求(特許訂正)を提出してきた場合、被控訴人は許容性の判断を待ってから実体論を準備することは認められない。応答答弁書(Statement of response)の期限内に、①補助請求の却下を求める手続的論点(RoP 222.2条違反)と②仮に許容された場合の実体論(無効理由・進歩性欠如等)を、主位・予備の関係で同時かつ包括的に主張・立証する必要がある。
- タイムライン管理の重要性:許容性の事前判断請求やそれに伴う審理停止・期限延長の申請(Stay / Extension of time)はUPCでは認められにくいため、与えられた所定の答弁期間内で双方の論点に対応できるよう、迅速な技術・法的検討体制を確保することが実務上不可欠である。
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