【統一特許裁判所第一審ハーグ地方部 / 2026年8月10日】UPC_CFI_621/2025, UPC_CFI_1707/2025, UPC_CFI_1708/2025 - 欧州特許庁(EPO)取消判断に伴う手続停止申立及び無効反訴の終了等に関する手続命令(Procedural Order)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

原告GlaxoSmithKline Biologicals SA(以下「GSK」)は、同一の原出願から派生した分割特許である欧州特許第4066856号(以下「EP856」)および第4226941号(以下「EP941」)の侵害を理由として、PfizerグループおよびBioNTechグループ(以下、総称して「PBNT」)に対して侵害訴訟を提起した(本訴:UPC_CFI_621/2025)。これに対し、被告らは各特許について無効反訴(UPC_CFI_1708/2025[EP856]、UPC_CFI_1707/2025[EP941])を提起していた。

口頭審理(2026年9月30日予定)を前に、以下の欧州特許庁(EPO)における並行手続の進展があった:

  • 2026年6月24日、EPO異議部(OD)が先行技術(WO 378/US 830)に対する新規性欠如を理由にEP941を取り消す決定を下した(理由書交付:7月17日)。
  • 2026年7月20日、EPO審理部(TBA)が口頭審理において、同一の先行技術に基づく新規性欠如を理由にEP856の取消決定を維持・確定させた(書面理由書は遅くとも10月19日に交付見込み)。

これを受け、被告PBNTはUPC手続規則(RoP)第9条および第295条に基づき、EPOにおける最終決定が出るまでのUPC訴訟手続の中止・停止(Stay)を申し立てた。原告GSKは当該申立ての却下を求めた。

2. 判決の主文

[事件番号:UPC_CFI_1708/2025(EP856無効反訴)について]

  1. EP856に関する無効反訴は訴えの利益を喪失(devoid of purpose)したため終了処分(Disposed of)とし、本件記録を閉廷・終結する。
  2. GSKは敗訴当事者として、相手方の合理的かつ衡平な訴訟費用を負担する。

[事件番号:UPC_CFI_621/2025(侵害本訴)および UPC_CFI_1707/2025(EP941無効反訴)について]

  1. 手続停止申立に関する裁判所の判断を留保(延期)する。
  2. 2026年9月30日に予定されていた口頭審理期日を取り消し、追って再指定する。
  3. 両当事者に対し、EPO審判部(TBA)によるEP856取消理由書の交付後4週間以内に、当該判断がUPCにおけるEP941の係属手続に及ぼす影響に関する準備書面の提出を認める。
  4. 各当事者は、相手方の準備書面受領後3週間以内にこれに対する反論書面を提出することができる。

3. 主な争点

  • 争点1: EPO審判部(TBA)の確定取消判断を受けた特許(EP856)に関する無効反訴の取扱いおよび手続終了(RoP第360条)の要否
  • 争点2: 共通の先行技術に基づいて取り消された親・分割関係にある特許(EP856の確定取消・EP941の異議部取消)に関し、EPOの審判判断確定までUPCの手続を停止(RoP第295条)すべきか否か、およびその判断時期

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. EP856に関する無効反訴の終了(RoP第360条)
EPO審判部(TBA)の口頭審理によりEP856の取消しが確定したため、同特許を対象とする無効反訴(UPC_CFI_1708/2025)は審理・判決を下す対象を欠くに至り、訴えの利益が消滅(devoid of purpose)した。したがって、RoP第360条に基づき手続を終結させ、特許権者であるGSKを敗訴当事者として費用負担義務を負わせた。

2. 手続停止(RoP第295条)に関する判断の留保と口頭審理の延期
EP856の確定取消は、同特許に基づく侵害請求を失効させるにとどまり、分割特許であるEP941に基づく侵害請求には直ちに連動しない。しかしながら、両特許は同一の親出願から派生した分割関係にあり、共通の先行技術(WO 378/US 830)による新規性欠如が問題となっている。本件の個別事情の下では、「EP941が無効とされる蓋然性の評価」がUPC手続を停止すべきか否かの判断において極めて重要な考慮要素となる。
この蓋然性の判断を適正に行うためには、EPO審理部(TBA)がEP856を取り消した詳細な書面理由(2026年10月19日までに交付予定)の精査が不可欠である。したがって、現時点で手続停止の可否を決するのは時期尚早であり、予定されていた口頭審理を延期した上で、TBA書面理由の交付後に当事者双方に意見開陳の機会を付与し、その後に手続停止の要否を判断することとした。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • UPCとEPOの並行手続における手続停止(Stay)の判断基準:
    UPC協定(UPCA)および手続規則(RoP 295(a)等)において、EPOにおける異議・審判手続の係属は自動的な訴訟停止事由とはならず、UPC裁判所の裁量に委ねられている。本決定は、親出願・分割出願の関係にある特許群において、一方の特許に対するEPO審理部(TBA)の確定無効判断の「理由付け」が他方の分割特許の有効性判断の蓋然性に直結し得る場合、TBAの書面理由交付を待って停止要否を判断するという、実務上極めて合理的かつ慎重な訴訟指揮の先例を示している。
  • 訴訟経済と期日管理(ケース・マネジメント):
    無効となる蓋然性が高い特許について無理に本案口頭審理を先行させず、EPOの最終書面理由を待って期日を再設定・再構成する柔軟なケース・マネジメント手法が採られており、当事者の無用な訴訟費用負担を回避する実務的配慮が窺える。

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