1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
原告(Wilus Institute of Standards and Technology, Inc.)は、欧州特許第3 849 157号(EP 3 849 157)に基づき、ASUSTeK Computer, Inc.(被告1)を含む被告6社に対し特許侵害訴訟を提起し、裁判手数料24,000ユーロを納付した(本訴:UPC_CFI_452/2025)。
これに対し、被告2(ASUS Computer GmbH)は原告および反訴被告2(SK Telecom Co., Ltd.)を相手方として特許無効反訴(CCfR:UPC_CFI_1152/2025)を提起し裁判手数料20,000ユーロを納付した。また、後日訴状の送達を受けた被告1も同様に別個の特許無効反訴(UPC_CFI_752/2026)を提起し、裁判手数料26,500ユーロを納付した。
その後、書面審理手続(written procedure)の終結前に、当事者双方は合意に基づき、訴訟費用についての裁判(cost decision)を求めずに各訴えを取り下げることの許可を裁判所に申請するとともに、統一特許裁判所手続規則(RoP)第370条第11項および第370条第9項(b)に基づき、納付済み裁判手数料の50%の返還を請求した。
2. 判決の主文
1. 被告1ないし被告6に対する特許侵害訴訟(UPC_CFI_452/2025)の取下げを許可し、手続の終了を宣言する。
2. 被告2が提起した特許無効反訴(UPC_CFI_1152/2025)および被告1が提起した特許無効反訴(UPC_CFI_752/2026)の取下げを許可し、各手続の終了を宣言する。
3. 侵害訴訟の裁判手数料の50%に相当する12,000ユーロを原告に返還する。
4. 反訴手続(UPC_CFI_1152/2025)の裁判手数料の50%に相当する10,000ユーロを被告2に返還する。
5. 反訴手続(UPC_CFI_752/2026)の裁判手数料の50%に相当する13,250ユーロを被告1に返還する。
6. 本件侵害訴訟および各特許無効反訴の訴額(value in dispute)をそれぞれ2,000,000ユーロと定める。
7. 本決定を登録簿に登録する。
3. 主な争点
- 争点1: 当事者双方の合意に基づく訴えの取下げ要件(RoP Rule 265)および訴訟費用の裁判の要否
- 争点2: 書面審理手続終結前の取下げに伴う裁判手数料の按分返還(RoP Rule 370.11、370.9(b))の可否および申立書中の明白な誤りの是正
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
1. 訴えの取下げおよび訴訟費用の裁判について
裁判所は、当事者間の相互合意が存在することから、RoP Rule 265に基づき本件侵害訴訟および各無効反訴の取下げを許可した。また、全請求が完全に取下げられ、かつ当事者双方が費用負担の決定を求めていない旨を明示しているため、UPC控訴裁判所の確定判例(UPC_CoA_840/2024、UPC_CoA_520/2024)に則り、訴訟費用についての裁判を行う必要はないと判示した。
2. 裁判手数料の返還および明白な誤記の更正
裁判所は、2026年1月1日以降施行の手続規則第370条第11項および第370条第9項(b)に基づき、書面審理手続の終結前の取下げであることを確認し、納付済み手数料の50%の返還を認めた。
なお、被告側の返還申立において、①被告2の反訴(UPC_CFI_1152/2025)に関して誤って被告1の名義が記載されていた点、および②被告1の反訴(UPC_CFI_752/2026)に関して納付額(26,500ユーロ)の50%(正しくは13,250ユーロ)を請求すべきところ誤って「10,000ユーロ」と記載されていた点について、裁判所はこれらを申立人の明白な誤り(obvious error)と認定し、職権的に更正して主文において正当な返還権利者および正しい返還額(13,250ユーロ)を判示した。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
- 書面審理終結前の和解・取下げによるコスト回収実務: UPC手続規則第370条第11項・第9項(b)に基づき、書面審理手続が終了する前に訴えの取下げが認められた場合、裁判手数料の50%の返還を受けることができる。本件は、侵害訴訟および複数の無効反訴が併合・係属する大規模紛争において、早期取下げによる費用軽減条項が実務上円滑に運用された事例である。
- 費用決定の申立て省略の有効性: 全面的な訴えの取下げと当事者双方による費用決定不要の合意がある場合、裁判所は独自の費用負担命令を発することなく手続を終結できる(UPC控訴裁の先行例に準拠)。和解条項等で当事者間の費用負担を合意清算する場合の実務的指針となる。
- 裁判所による形式的誤記の是正: 返還申立書上の名義や計算誤り(返還請求額の過小記載)について、裁判所が明白な誤記として実体(実際の納付者および納付額の50%ルール)に即して柔軟に是正しており、実務上の運用弾力性が示されている。
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