1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
(1)当事者及び対象特許
被控訴人(第1審原告・反訴被告)Yellow Sphere Innovations GmbH及びErwin Härtwichは、発泡樹脂製構造部材を有する車両用フレーム及びその製造方法に関する欧州特許第3 356 109号(以下「本件特許」)の共有特許権者である(独・仏・伊・スロベニア等で有効)。控訴人(第1審被告・反訴原告)Knaus Tabbert AGは、キャンピングカー(モデル名「DESEO」「AZUR」等)を製造・販売する事業者である。
(2)事実経過及び請求内容
控訴人は開発契約に基づき試作モデルの受領等を行っていたが、正式なライセンス契約は締結に至らなかった。被控訴人らは、控訴人が本件特許のクレーム1を侵害しているとして、ドイツ、フランス、イタリア及びスロベニアを対象とする差止請求、情報提供請求、回収・廃棄請求、損害賠償請求及び補償金請求等を求めて統一特許裁判所(UPC/EPG)デュッセルドルフ地方部に提訴した。これに対し控訴人は、侵害の不成立、先使用権(独特許法12条)、ライセンス権原を主張するとともに、本件特許の無効確認を求める反訴を提起した。
(3)原審判決及び控訴
デュッセルドルフ地方部は、本件特許の有効性を肯定して反訴を棄却し、本訴請求を概ね認容(差止、情報提供、廃棄等の命令、10万ユーロの仮払損害賠償命令等)した。控訴人はこれを不服として本訴・反訴の双方につき控訴を提起し、欧州司法裁判所(CJEU/EuGH)への先決裁定付託(Art. 267 TFEU)も申し立てた。
2. 判決の主文
1. 控訴人(Knaus Tabbert AG)の控訴をいずれも棄却する。
2. 控訴審および執行停止申立手続に関する訴訟費用(裁判所手数料および被控訴人らに生じた費用等)は控訴人の負担とする。
3. 侵害訴訟控訴審及び無効確認反訴控訴審の訴訟物をそれぞれ500,000ユーロと定める。
3. 主な争点
- 争点1(実体特許法):本件特許クレーム1(プロダクト・バイ・プロセス・クレームを含む)の解釈並びに無効理由(新規性・進歩性・実施可能要件)の存否
- 争点2(手続法):控訴審段階で初めて提出された新規先行技術文献(JP 2010-221502 A)の許容性(UPC手続規則(RoP)第222条2項)
- 争点3(裁判管轄及び適用法規):UPCA発効前(2023年6月1日以前)の行為に対するUPCの国際裁判管轄権の有無、並びに過去の侵害行為に対する実体法(UPCAか各国国内法か)の時間的適用関係(不遡及原則)
- 争点4(侵害論及び抗弁):被疑侵害物件の構成要件充足性、先使用権及びライセンス抗弁の成否
- 争点5(救済論):仮払損害賠償(RoP第119条)の適法性及びCJEUへの先決裁定付託の要否
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
1. プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈および有効性判断(争点1)
- 製法記載を含む物クレームの解釈規範:物クレームに特定の製造方法が記載されていても、その性質は「物」のクレームである。製法記載は物を間接的に特定する機能を果たすにとどまる。ただし、当該製法によってのみ得られる特定の物理的・機能的性質が存在する場合、クレームは結果としてその製法によって得られた物に限定解釈される。
- 構成要件の充足性と有効性:本件クレーム1の「フレーム」は、自立構造(モノコック)の車体全体とは区別され、車体を支持する独立した別個の骨組構造を指す。引用文献(WK3, WK4, WK5, WK7, WK26等)はいずれも本件特許が規定する「車両用フレームを構成する構造部材」としての構成または機能を直接的・一義的に開示しておらず、当業者にとっても容易想到ではない。また、実施可能要件違反も認められない。
2. 控訴審における新たな先行技術の提出制限(争点2)
- RoP第222条2項に基づき、第1審で提出されなかった新たな事実・証拠を控訴審で考慮するかは裁判所の裁量に属する。
- 当事者は第1審段階で可能な限り早期かつ完全に関連主張・証拠を提出する義務を負う。調査費用の多寡や第1審判決のクレーム解釈の変更を理由とする遅延提出は正当化されず、新規文献(JP 2010-221502 A)は却下された。
3. UPC発効前(2023年6月1日以前)の侵害行為に対する管轄と準拠法(争点3)
- 裁判管轄権と実体法の分離:UPCの裁判管轄権(Jurisdiction)と実体法の時間的適用範囲は峻別される。UPCA発効前の行為であってもUPCは適法に裁判管轄権を有する(ウィーン条約法条約28条の不遡及原則は裁判所の管轄権限を妨げない)。
- 実体法規の不遡及原則と各請求権の性質:
- 差止請求(Art. 63 UPCA)・廃棄等の是正措置(Art. 64 UPCA):2023年6月1日以前に侵害行為が終局的かつ真摯に停止されていない限り、将来に向かって成立する請求であるため、UPCA実体法が直接適用される。
- 損害賠償請求(Art. 68 UPCA):侵害行為の終了ごとに個別の請求権が発生・確定するため、2023年6月1日前の個別行為に対しては、ローマII規則第8条1項経由で指定される各国国内法が実体法として適用される。
- 情報提供請求(Art. 67 UPCA):各国法上、手続法に分類される場合はUPCAが、実体法上の請求権とされる場合は各国国内法が適用される。
- 国内法の立証責任と知財執行指令(2004/48/EC)による事実上の推定:国内法の内容については援用する当事者が主張・立証責任を負う(UPCA第54条の類推適用)。ただし、知財執行指令第13条1項(損害賠償)および第8条(情報提供)は各加盟国で国内法化されており、UPCA第68条1項・第67条1項はその最低基準を反映したものであるため、国内法が特許権者に不利に乖離していない事実上の推定が働く。
4. 侵害の成否、抗弁及び損害額・付託の判断(争点4、5)
- 侵害論・抗弁:被疑侵製品はクレーム1の全構成要件を充足する。また、過去の試作・製造車両は本件発明の「フレーム」の構成・技術的思想を具備していなかったため先使用権(独特許法12条)は成立せず、ライセンス権原も認められない。
- 仮払損害賠償(RoP第119条):RoP第119条は手続規定であり、2023年6月1日前の行為に対しても即時適用される。第1審が和解交渉時の提示額等を勘案して認容した100,000ユーロの仮払損害賠償命令は適法である。
- CJEU付託の拒絶:争点はUPC既判例または自明な法理(Acte Clair / Acte Éclairé)に基づき解決可能であり、先決裁定付託(Art. 267 TFEU)の必要性はない。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
(1)「旧法下(2023年6月1日前)の侵害行為」に関する統一特許裁判所の実務指針の確立
本判決は、UPCA発効前の侵害行為(いわゆるAltfälle)について、UPCの国際裁判管轄権を認めつつも、実体法上の請求権ごとに準拠法を峻別(差止・廃棄=UPCA適用、過去の損害賠償=各国国内法適用)する判断基準を明確に定立した。国内法適用の場面でも、EU知財執行指令に準拠した最低保護水準に基づく事実上の推定が働くため、侵害者は国内法が特許権者に厳格である旨の実務慣行等を具体的に主張・立証しない限り責任を免れない点に実務上の注意が必要である。
(2)控訴審(Court of Appeal)における厳格な審理範囲(RoP 222条・226条)
第1審で提出可能であった先行技術や主張について、控訴審での後出し提出(追加サーチ結果等)は極めて厳格に排除される。第1審段階で予備的主張を含めた網羅的なディフェンスを構築することが実務上不可欠である。
(3)プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈規範
製造方法の限定が付された物クレームについて、単なる製法にとどまるのか、得られる物自体の構造的・機能的差異をもたらす限定(Sachmerkmale)であるのかを当業者の技術常識に基づき精緻に判断するアプローチが示されている。
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