【EPA Technical Board of Appeal / 2026年06月24日】T 1148/24 - 農業用作業機械に関する欧州特許の新規性およびクレーム解釈(G 1/24)に関する審決

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、特許権者であるCLAAS Selbstfahrende Erntemaschinen GmbH(抗告人・特許権者)が、Deere & Company等(相手方・異議申立人)による特許異議申立てに基づき、欧州特許庁(EPO)異議部が欧州特許第3552472号(以下「本件特許」)をEPC第101条(3)(b)に基づき取り消した決定(原決定)に対し、抗告(Beschwerde)を申し立てた事案である。
本件特許の発明の名称は「LANDWIRTSCHAFTLICHE ARBEITSMASCHINE(農業用作業機械)」であり、作業プロセスの実施時に移動機能および作業アグリゲートを制御する運転者支援システム(Fahrerassistenzsystem)を備えた収穫機等の農業用作業機械に関するものである。
抗告人は、原決定の取消し並びに主請求(Hauptantrag)または補助請求1~3(Hilfsanträge 1–3)に基づく特許の維持を求めた。一方、相手方は本件抗告の棄却を求めた。

2. 判決の主文

抗告を棄却する(Die Beschwerde wird zurückgewiesen.)。

3. 主な争点

  • 争点1: クレーム解釈の規範および拡大審判部決定 G 1/24 の適用関係
    明細書および図面の記載(実施例)に基づいて、クレーム上の専門用語(「制御戦略(Regelstrategie)」、「作業戦略(Bearbeitungsstrategie)」等)を減縮解釈できるか否か。
  • 争点2: 主請求項1の新規性(EPC第54条)
    先行技術文献 D1(EP 3 242 257 A1)の開示内容に照らし、外部計算ユニットとの通信、最適化器(Optimierer)による制御戦略の選択・パラメータ化等の構成が新規性を有するか否か。
  • 争点3: 補助請求1~3の新規性(EPC第54条)
    「作業戦略」の限定、「最大化/最小化」の構成、並びに「センサー監視」の構成の追加により新規性が認められるか否か。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1)クレーム解釈および G 1/24 に関する判断(理由2)

抗告人は、拡大審判部決定 G 1/24 に基づき、クレーム用語の解釈には常に明細書および図面を参酌すべきであり、本件明細書段落[0023]および[0024]の記載に基づいて「作業戦略」および「制御戦略」を限定解釈すべきであると主張した。
しかし、審判部(Kammer)は以下の通り判示し、抗告人の主張を退けた。

  • 明細書段落[0023]および[0024]は「作業戦略」や「制御戦略」の具体的な例示や好ましい態様を示しているに過ぎず、明確な定義(Definition)を与えるものではない。
  • 個別の実施態様においてのみ開示されている特徴は、原則としてクレーム解釈を通じてクレーム文言を限定するために引き出すことはできない。これは G 1/24 に基づく審判判例誌の法理とも合致する。したがって、クレーム上の用語は広義に解釈されるべきである。

(2)主請求項1の新規性について(EPC第54条)(理由3)

先行技術文献 D1 は、自走式コンバイン(収穫機)および運転者支援システム(車載コンピュータ54)を開示している。

  • 制御戦略(Regelstrategie)の存在: クレーム文言上「制御戦略」は限定されておらず広義に解釈されるところ、D1段落[0048]に記載された「目標設定値と設定パラメータとの間のあらかじめプログラムされた相関関係(vorprogrammierte Zusammenhänge)」は、本件の「制御戦略」に該当する。
  • 外部計算ユニットとの通信インターフェース: D1において外部コンピュータ(200)を省略し、計算処理を直接車載コンピュータ(54)で行う実施形態(D1段落[0050])では、車載コンピュータが外部データベース(外部計算ユニット210, 212, 214)から直接データを取得せざるを得ないため、通信インターフェースを備えていることが必然的に開示されている(固有の開示)。
  • 最適化器(Optimierer)およびパラメータ化: 明細書において「最適化」の定義が限定されていないため広義に解釈される。D1の車載コンピュータ(54)は、伝送されたデータに基づいて目標値を計算し、これに応じて設定パラメータ(制御戦略)を選択・計算(パラメータ化)しており、「最適化器」としての機能を果たしている。

したがって、主請求項1の技術的範囲はすべて D1 に開示されており、新規性を欠く(EPC第54条)。

(3)補助請求1~3の新規性について(EPC第54条)(理由4~6)

  • 補助請求1(理由4): 「作業戦略」の要件を追加。しかし、D1における「目標設定値(Zielvorgaben)」のセットを作業戦略とみなし、それに対応するパラメータ相関関係を制御戦略と解釈できるため、D1段落[0048]により新規性が否定される。
  • 補助請求2(理由5): 「処理量の最大化」「燃料消費の最小化」「脱穀品質の最大化」等の技術的意図を追加。審判部は、当業者であればこれら「最大化/最小化」を厳密な数学的極値ではなく、コストやエンジン出力等の現実的制約条件を考慮した現実的な「最適化(Optimierung)」と解釈すると判示。D1(第4欄48-55行等)においても各種制約下での処理量や品質の最適化が開示されているため、新規性を欠く。
  • 補助請求3(理由6): 「センサー監視値に基づく選択」の要件を追加。これは D1(段落[0035], [0041], [0043], [0048])に明確に開示されているため、新規性を欠く。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

1. 拡大審判部決定 G 1/24 下におけるクレーム解釈の限界と実務的留意点
本判決は、G 1/24 を踏まえたクレーム解釈の実務基準を明確に示している。明細書および図面をクレーム解釈に参酌できるとしても、明細書中に明確な「定義(Definition)」が存在しない限り、単なる実施例や好ましい態様(Anwendungsbeispiele / bevorzugte Ausführungsformen)をもってクレームの広い文言を不当に減縮解釈することは認められない。権利化実務においては、主要な機能概念(制御戦略、最適化等)についてクレーム上で具体的に構造的・機能的限定を付すか、明細書内で明示的な定義を置く必要がある。

2. クレームにおける「最大化/最小化(Maximierung/Minimierung)」の解釈規範
技術クレームにおける「最大化」や「最小化」という文言について、審判部は当業者の観点から「厳密な数学的極値」ではなく、実務的・物理的制約(オーバーヒート防止、燃料消費、コスト等)を考慮した「実用的な最適化(Optimierung)」と同義であると解釈した。定性的な目標値表現をクレームに追加しても、先行技術のパラメータ最適化処理に対して新規性を付与する要素とはなりにくい点に留意すべきである。

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