【EPO審判部 / 2026年5月29日】T 0665/24 - 削岩用部品の結合構造に関する特許維持審判決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、特許権者(Sandvik Intellectual Property AB、被控訴人)が保有する欧州特許第3 298 229号(発明の名称:「強化されたスピゴット結合部を備える削岩ロッドまたはアダプタ」)に対し、異議申立人1(Robit Plc、控訴人)および異議申立人2(ROCKMORE INTERNATIONAL GmbH)が異議を申し立てた事案の控訴審である。
原審(異議部)は、当時の補助請求1に基づく訂正維持決定(中間決定)を下した。これに対し両異議申立人が不服として控訴したが、異議申立人2は控訴審係属中に控訴を取り下げ、当然の当事者(party as of right)の地位にとどまった。
特許権者は控訴審答弁書において補助請求1〜4を提出し、最終的に補助請求3のみを維持した。控訴人は、当該補助請求の却下および進歩性欠如(EPC第56条)を理由とする特許取消を求めた。

2. 判決の主文

  1. 原決定を取り消す。
  2. 本件を異議部に差し戻し、2024年11月29日付で提出された補助請求第3の請求項1〜14、口頭審理で提出された訂正明細書、および特許公報の図面に基づく特許の維持を命じる。

3. 主な争点

  • 争点1: 手続規則(RPBA 2020)に基づく申立・異議の許容性(Admissibility)
    • 期日通知(RPBA第15条(1)通知)後に異議申立人2が提起した新たな攻撃・異議(RPBA第13条(2))の適否
    • 特許権者が控訴審答弁書で初めて提出した補助請求第3の審理対象への算入可否(RPBA第12条(4)および第12条(6))
  • 争点2: 補助請求第3に基づく請求項1の進歩性の有無(EPC第56条)
    • 先行技術D8を出発点とし、アンダーカット特徴(D26またはD12に基づく周知技術)および寸法比率(Ls/Dy = 0.4または0.45)を組み合わせた構成が、当業者にとって自明であるか否か。特に、顕著な技術的効果が主張されていない数値限定(代替的解決手段)について、任意の選択(arbitrary selection)として進歩性が否定されるか。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. 手続面(新たな異議および請求の許容性)

  • 異議申立人2の遅れた主張の却下(RPBA第13条(2)): 口頭審理への出頭通知後に提起された新たな異議について、これを正当化する例外的状況(exceptional circumstances)および説得力のある理由(cogent reasons)が示されていないため、審判廷の裁量により審理から除外した。
  • 補助請求第3の許容(RPBA第12条(4), (6)): 答弁書において追加構成要件および新規性・進歩性の主張が簡潔ながら示されており、第12条(4)の要件を満たす。また、原審における手続経緯(多数の文献提出・手続の展開)に照らし、原審段階で直ちに提出すべきであったとはいえず、第12条(6)後段による排除事由にも当たらない。

2. 進歩性(EPC第56条)の判断

  • 客観的技術課題の設定: 請求項1の特徴である寸法比率(Ls/Dy = 0.4または0.45)は、明細書記載の範囲(0.4〜1.0)のうち他の値と比較して特段の有利な効果は奏しない。したがって、客観的技術課題は「代替的な打撃削岩用部品の提供」と設定される。
  • 自明性の否定(当てはめ): 控訴人は、課題が単なる代替物の提供である以上、当該数値の選択は無数の選択肢からの任意の選択(arbitrary selection)や試行錯誤の範囲内であり自明であると主張した(CLB I.D.9.21.9援用)。しかし審判部は、「任意の選択」に関する判例法理は『客観的技術課題を解決する候補として、当業者に利用可能な明確に定義された選択肢群(a defined host of solutions)が存在すること』を前提とすると判示。本件において先行技術中から当該特定の比率(0.4または0.45)を開示または示唆する証拠は一切示されておらず、選択肢群が当業者に認識されていたとはいえない。したがって、単なる代替手段であっても先行技術から導き出せない以上、進歩性は肯定される(CLB I.D.4.5参照)。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 「代替手段の提供」における進歩性(Arbitrary Selectionの抗弁に対する防禦): 顕著な技術的効果が存在せず課題が「代替手段(alternative)」と認定された場合であっても、直ちに「任意の選択=進歩性欠如」となるわけではない。相手方が進歩性欠如を立証するためには、請求に係る具体的態様が「当業者にとって既知・定義済みの選択肢群の中から容易に選択可能なもの」であることを先行技術等に基づき具体的に立証する必要があることが明確に示された。
  • RPBA 2020下の異議・請求の提出時期管理: 第15条(1)通知後の新たな主張は第13条(2)の厳格な要件(例外的状況の疎明)が課され原則却下される一方、第1審(異議部)で勝訴・訂正維持された特許権者が控訴答弁書で提出するバックアップとしての補助請求については、第1審の手続的動態を踏まえて第12条(6)の適用が柔軟に判断される実務例である。

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