1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
本件は、特許権者(被控訴人:Körber Technologies GmbH)が保有する欧州特許第3297461号(発明の名称:「タバコ加工産業の吸引ベルトコンベア、ロッドマシン、タバコ加工産業の材料ロッドの材料特性を測定するための使用および方法」)に対し、異議申立人(控訴人:G.D S.p.A.)が欧州特許条約(EPÜ)第100条(a)および第56条(進歩性の欠如)を理由として異議を申し立てた事案の控訴審(審判請求手続)である。
EPO異議部は異議申立てを棄却(特許維持)する決定を下したため、異議申立人はこれを不服として原決定の取消しおよび請求項1〜4、7〜12に係る特許の取消し(Widerruf)を求めて控訴した。これに対し、特許権者は主請求として控訴の棄却(付与時クレームのまま維持)を求めた。
2. 判決の主文
控訴を棄却する(Die Beschwerde wird zurückgewiesen)。
(これにより、欧州特許第3297461号は付与されたクレーム構成のまま維持される。)
3. 主な争点
- 争点1: 主引用文献(D1)を出発点とし、当業者の周知技術を組み合わせることによる進歩性(EPÜ第56条)の有無
(D1に開示された構成に対し、測定装置を「空洞共振器を備えたマイクロ波測定装置」とする構成(特徴1.5)を適用することの容易想到性、および提出証拠(D6〜D8)による周知技術の立証の成否) - 争点2: 主引用文献(D1)と副引用文献(D4、D5、D6)との組み合わせによる進歩性の有無
(D1の吸引ベルトコンベアに対して、D6等のマイクロ波共振器構造を側壁(Kanalwangen)に統合する動機付けおよび事後分析(ex-post facto)の有無)
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
審判部(Beschwerdekammer)は、主請求に係る独立請求項1、10および11の主題はいずれもEPÜ第56条に基づく進歩性を有すると判断し、異議申立人の主張を斥けた。その判断ロジックは以下のとおりである。
(1) 相違点および客観的技術課題の設定
請求項1記載の発明は、D1(DE 198 25 592 A1)に対し、少なくとも「測定装置が少なくとも1つの空洞共振器を有するマイクロ波測定装置として構成されている点(特徴1.5)」において相違する。したがって、D1から出発する客観的技術課題は、「材料ロッドの材料特性(水分、密度、量など)について改善された測定手段を提供すること」と設定される。
(2) 周知技術に基づく動機付けの否定および立証基準
異議申立人は、当業者が周知技術に基づいて上記課題を解決できたと主張したが、審判部はこれを否定した:
- 証拠性の欠如:特許文献(D6)および企業ウェブサイト(D7)は、優先日当時における当業者の「一般周知技術(allgemeines Fachwissen)」を立証する適切な証拠とは認められない。また、文献D8(論文)も一般的なマイクロ波水分測定を論じたものにすぎず、タバコ加工産業分野の当業者の周知技術を開示するものとは認められない。
- D1内部の教示(示唆)との背反:D1は、既存の導電率測定から異なる測定原理へ移行する際の具体的解決策として「核磁気共鳴(NMR)測定」を明示的に示唆・教示している(D1第4欄56行〜第5欄2行)。当業者にとってD1の教示に沿ってNMR測定を発展させることが自然なアプローチであり、D1の明示的教示を無視して構造的大幅改変を要するマイクロ波測定を採用する合理的な理由は立証されていない。
(3) 副引用文献(D4、D5、D6)の組み合わせにおける事後分析(ex-post facto)の排除
仮に副引用文献を参酌したとしても、進歩性は否定されない:
- D6との組み合わせ:D6に記載された共振器をD1の吸引ベルトコンベア側壁(Kanalwangen)に組み込む構造は教示されておらず、これをD1に適用する推論は、本願発明を知った上での「事後分析的考察(ex-post facto Betrachtung)」にすぎない。
- D4およびD5との組み合わせ:D4およびD5はエバネッセント波を利用するセンサーを開示しているが、搬送されるタバコ層の全幅にわたって信頼性高く測定可能であるとは認められず、当業者がこれらをD1の課題解決に適用する動機付けは見出せない。
独立請求項10(使用)および11(方法)も請求項1の限定要素を包含しているため、同様に進歩性が認められる。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
- 一般周知技術の立証責任と証拠能力: 単一の特許文献(D6)や一般企業のウェブサイト情報(D7)は、EPO実務において「当業者の一般周知技術(common general knowledge)」を立証する証拠として基本的に認められないことが再確認された(標準的な教科書やハンドブック等の提出が必要)。
- 主引例(D1)内の具体的教示・示唆の拘束力: 主引用文献自体が特定の代替手段(本件ではNMR)を明示的に示唆している場合、当業者がその示唆を離れて別異の測定原理(マイクロ波)を選択する理由・動機付けについて、主張側(異議申立人)に高度な論証責任が課される。
- 課題解決アプローチ(Problem-Solution Approach)における事後分析の排除: 物理的・構造的な統合形態(コンベア側壁内への空洞共振器の組込み)について先行文献に具体的な示唆がない場合、単に要素技術が存在することのみをもって組み合わせ容易とすることは事後分析として排斥される。
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