【統一特許裁判所(UPC)ブリュッセル地方部 / 2026年8月14日】UPC_CFI_1357/2025, UPC_CFI_629/2025 - 追加書面提出の許可申立て(RoP第36条)および手続からの排除申立て(RoP第9条)に関する手続命令

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、特許権者である原告 Establishment Labs S.A.(以下「LABS」)が、GC Aesthetics Parentco Limited ほか12社(以下「被告ら」)に対し、欧州特許(EP 3 107 487 B1)の侵害訴訟(Workflow 1)を提起したのに対し、被告らが特許取消の反訴(Workflow 2)を提起し、さらにLABSが特許訂正申請(Workflow 3)を行った複合訴訟事件である。

2026年7月30日、LABSはWorkflow 2及び3に関する答弁書面(Rejoinder)を提出したが、同書面中に「侵害(Infringement)」「侵害行為(Acts of Infringement)」「管轄(Jurisdiction)」「救済(Relief)」と題するセクションを含めた。これに対し被告らは、UPC手続規則(RoP)第9条に基づき、上記各セクション(担保に関する§611〜616を除く)は規定の交換往復回数を超えた不適法な追加主張であるとして、手続から排除(inadmissible)すること等を申し立てた。

LABSは、被告らが直前の書面で新たな論点(UPC控訴裁判所の最新判例に基づく手続停止申立てやEU司法裁判所への先決裁定申請等)を提起したため、審尋を受ける権利(Right to be heard)に基づき反論したものであり、RoP第36条に基づく「黙示の追加書面提出申請」と解されるべきと反論し、予備的にRoP第36条に基づく明示的な追加書面提出の許可を申し立てた。

2. 判決の主文

裁判所(担当裁判官:Judge-Rapporteur)は、以下のとおり命じた。

  • LABSが2026年7月30日付で提出したRejoinderのうち、「Infringement」および「Relief」(§611〜616を除く)のセクションを不適法とし、手続から排除する。
  • 同Rejoinderのうち、「Acts of Infringement」および「Jurisdiction」のセクションについては、RoP第36条に基づき手続への導入を許可する。
  • LABSに対し、本命令から16日以内に、不適法と判断されたセクションを削除した修正版Rejoinderを提出することを命じる(ただし、当事者がRoP第333条に基づく合議体による見直しを請求した場合は除く)。
  • 被告らに対し、手続導入が許可されたセクションへの反論を書面で行うことを許可し、その提出期限を2026年9月7日(18:00 CEST)まで延長する。
  • 本手続の費用は、本案判決において判断する。

3. 主な争点

  • 争点1: RoP第36条に基づく「黙示の」追加書面提出申請(Implicit Request)の可否
  • 争点2: RoP第36条に基づく追加主張の許容性(訴訟経済・柔軟性と当事者の防御権・武器対等の原則の調和)
  • 争点3: 被告3の従犯的責任(accessory liability)および非UPC加盟国の国内法適用に関する主張の取扱い

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. 黙示の追加書面提出申請の否定(争点1)
RoP第12条1項に基づき、書面審理での主張機会は原則として各当事者2回に限定されている。RoP第36条による追加書面の提出は例外的な措置であり、当事者による「明示的・形式的(explicit/formal)」な申立てを要する。RoP上「黙示の申立て」を認める制度は存在しないため、LABSの黙示の主張に基づく請求はすべて却下される。

2. 明示的申請に対するセクションごとの許否判断(争点2)
裁判所は、RoP前文第4項(手続の柔軟性、迅速性、費用対効果の確保)および当事者の防御権を考慮し、予備的に申し立てられた明示的申請について以下のとおり判断した。

  • 「Infringement」および「Relief」セクション:LABSはこれらを追加提出すべき十分な理由を示しておらず、単なる技術的侵害論や救済論の蒸し返し・新規追加に過ぎないため、手続から排除する(争いのない担保提供に関する§611〜616を除く)。
  • 「Acts of Infringement」および「Jurisdiction」セクション:被告らが直前の書面で、最新のUPC控訴院判例(Dyson v Dreame, Fujifilm v Kodak, Adobe v Keeex等)に依拠した管轄異議や手続停止を提起したことを確認した。これらの進展する判例法に基づく新たな論点に対し、口頭審理のみで反論させるよりも、書面で反論機会を与える方が手続上効率的である。また、侵害行為と管轄は密接に連動しており人為的に分離できないため、これらのセクション全体の提出を許可する。

3. 外国法の主張立証責任と訴訟指揮(争点3)
LABSが被告3の責任根拠として非UPC加盟国(アイルランド、ノルウェー、スイス等)の国内法(§587)をRejoinderで初めて引用した点について、外国法は「事実」として当事者が主張立証責任を負うものであり(UPC裁判官は職権で外国法を調査・適用しない)、本来初期段階で提出すべきであった。しかし、裁判所が本案判断を行うにあたり当該国内法情報が必要となる可能性があり、中間期日(RoP第104条(e))で裁判官が追加提出を命じる権能を有することも考慮し、訴訟経済の観点から当該記載を許可した。

4. 武器対等の原則と期限延長
LABSの追加主張を認めたことに伴い、手続的公平性(武器対等の原則)を担保するため、被告らが予定している次回書面(特許訂正答弁に対する再答弁書)内での書面反論を認め、準備期間として5営業日の提出期限延長(2026年9月7日まで)を付与した。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • RoP第36条の厳格な形式要件:追加書面の提出を求める場合、通常の準備書面内での実質的主張(黙示的申請)では足りず、RoP第36条に基づく明示的かつ個別的な申立てが必須であることが確認された。
  • 進化するUPC判例法への対応と手続の柔軟性:UPC控訴院の最新判例(特に域外管轄・ロングアーム管轄権に関する判例群)に依拠した新たな抗弁がなされた場合、手続経済(RoP前文第4項)の観点から、例外的に第3ラウンドの書面提出が柔軟に認められる実務指針が示された。
  • 非加盟国法の主張責任:非UPC締約国の国内特許法等の適用を主張する場合、UPC裁判所においては「事実」として扱われ、職権調査の対象外であるため、初期の訴状・答弁段階で明確に根拠条項を主張立証しておく必要がある実務上の留意点が浮き彫りとなった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

【UPC Court of Appeal / 2026年08月28日】No. UPC-CoA-678/2025 - 特許補正手続の許容性、先行技術に基づく進歩性、およびUPCA非締約国における特許侵害管轄・立証責任に関する控訴審判決

1. 事案の概要(事実経過・請求内容) 当事者: 控訴人(第一審原告)は、スロージューサー市場で事業を展開する韓国法人Hurom Co., Ltd.(以下「HUROM」)。 被控訴人(第一審被告)は、韓国法人NUC Electronics Co., Ltd(以下「NUC Ko...