【EPO法務審判部 / 2026年8月13日】J 0010/25 - 拒絶決定における理由付記の不備(EPC規則111条(2)違反)と審判手数料の返還

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

欧州特許出願人(審判請求人)は、出願書類に含まれる図面(2024年5月22日提出)について、欧州特許庁(EPO)受理部(Receiving Section)よりEPC規則58条に基づく不備補正通知書(EPO Form 1050C)を受領した。当該通知では、図面中の文字等の高さ不足(0.32cm未満)および図番号がアラビア数字で連続していない旨の形式的不備(EPC規則49条、50条等違反)が指摘され、2か月の応答期間が設定された。

出願人は上記期限内に応答しなかったが、その後、2025年3月19日および同年7月15日に補正図面(主請求・副請求)を提出した。

受理部は2025年9月1日付で定型書式(EPO Form 1088)により、EPC第90条(5)に基づく出願拒絶決定を発出した。当該決定書には「通知された不備が所定期限内に補正されなかったか、または適切に是正されなかった(was (were) not corrected in due time or not properly remedied)」という選択的記載のチェックボックスにチェックが付されていた。

出願人は、補正図面により不備は解消されているとして、原決定の取消し、受理部への差戻し、および審判請求手数料の返還を求めて法務審判部(Legal Board of Appeal)に審判を請求した。

2. 判決の主文

1. 原決定を取り消す。
2. 事件を更なる手続のため受理部へ差し戻す。
3. 審判請求手数料を返還する。

3. 主な争点

  • 争点1: 定型書式による拒絶理由の曖昧性と理由付記義務違反(EPC規則111条(2))の有無
    「期限徒過」による拒絶なのか「提出図面の実質的不備(規則49条違反の未解消)」による拒絶なのかが不明確な決定が、適法な理由提示といえるか。
  • 争点2: 重大な手続違反(Substantial Procedural Violation)および審判手数料返還要件(EPC規則103条(1)(a))の該当性

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) 拒絶理由の不明確性とEPC規則111条(2)違反

受理部の決定書(Form 1088)は、「期限内に補正されなかった(not corrected in due time)」のか、あるいは「適切に是正されなかった(not properly remedied)」のかという二者択一的な理由を併記・選択したにとどまる。これにより、拒絶が単なる規則58条の期間徒過に基づくものなのか、それとも遅れて提出された図面が規則49条の要件を満たしていないとの実質的判断に基づくものなのかが判然としない。

決定の根拠となる決定的な理由(decisive ground)が不明確であることは、当事者から実効的な司法的理由付け(effective judicial reasoning)を享受する権利を奪うものであり、決定に理由を付すことを義務付けたEPC規則111条(2)に違反する。

(2) 重大な手続違反と手数料の返還

上記のような理由不備の曖昧性は「重大な手続違反(substantial procedural violation)」を構成する。したがって、原決定を取り消して事件を受理部に差し戻すとともに、EPC規則103条(1)(a)に基づき審判請求手数料の全額返還を命じるのが相当である。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 定型書式(Standard Forms)を用いた決定の限界と理由提示義務:
    EPOの方式審査(受理部)等で定型フォームが用いられる場合であっても、拒絶理由が複数の解釈を生むような曖昧な記載(チェックボックスの選択文言が両義的である場合など)のまま処分を行うことは、EPC規則111条(2)違反(理由不備)として重大な手続違反を構成する。
  • 代理人・出願人実務における救済手段:
    受理部の拒絶理由が期間徒過なのか実質的な補正不備なのか不明瞭である場合、審判段階において理由不備(規則111条(2))および重大な手続違反を主張することで、原決定の取消し・差戻しのみならず、審判手数料の全額返還(規則103条(1)(a))を勝ち取るための有力な根拠となる。

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