【UPC 初審裁判所 ハーグ地方部 / 2026年8月13日】UPC-CFI-1048/2025 - 訴訟取下げ・手続終了決定後の裁判所費用(手数料)還付申請の適法性および申請期限に関する決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

原告(BTL Medizintechnik GmbH)は、被告(Lexter Microelectronic Engineering Systems S.L.)に対し、欧州特許(EP4146335)に基づく特許権侵害訴訟を提起した。訴訟の初期段階(被告の答弁書提出前)において当事者間で和解が成立したため、原告は統一特許裁判所手続規則(RoP)第265条第1項に基づき訴えの取下げを申し立てた。その際、両当事者は裁判所に対し「費用に関する決定は不要である(no decision on costs was needed)」旨を通知した。

これを受け、裁判所は2026年1月16日付の合議体決定により、訴えの取下げを承認し、本訴手続の終了(閉鎖)を宣言するとともに、費用決定は不要である旨を宣言して事件を終結(closed)させた。

しかし、手続終結から約2か月が経過した2026年3月10日、原告代理人は事件管理システム(CMS)上の閉鎖された事件ファイルにおいて、RoP第370条第9項(b)に基づく裁判所費用(court fees)の60%還付を求める申請(RoP第370条第11項)をアップロードした。裁判所からの適法性に関する照会に対し、原告は他地方部(デュッセルドルフ、ミュンヘン、ハンブルク等)の実務例を挙げ、費用の決定不要申出と手数料還付は別異の概念であり期限内であるとして、決定の発出を求めた。

2. 判決の主文

裁判所は以下のとおり決定(Order)した。

  • 1. 裁判所費用の還付申請を不適法(inadmissible)として却下する。
  • 2. 手続規則(RoP)第220条第2項に基づき、本決定に対する控訴を許可する(leave to appeal granted)。

3. 主な争点

  • 争点1:手続終了(終結)決定後の閉鎖事件ファイルに対する還付申請の手続的適法性
    手続終了宣言がなされ閉鎖された事件(closed file)において、事件再開(reopening)の申立てを経ずにCMS上で直接還付申請を行うことが許容されるか。
  • 争点2:費用決定不要の申出による裁判所費用還付請求権の失権(放棄)の有無
    「訴訟費用に関する決定は不要」と合意・申出して手続を終了させたことが、裁判所費用の還付を求める権利の喪失(forfeiture)につながるか。
  • 争点3:RoP第370条第11項に基づく還付申請の期間制限
    明文の期間規定がない還付申請において、手続終了から約2か月後の申立てが許容されるか(RoP第151条に定める1か月の期間制限や迅速性の原則の類推適用の可否)。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

裁判所は、原告の還付申請を不適法とし、仮に適法であったとしても理由がないとして以下のとおり判断した。

1. 閉鎖された事件ファイルに対する申立ての不適法性(主位的理由)

  • RoP第265条第2項に基づき手続終了決定が下され事件が閉鎖された場合、CMSのシステム上アップロードが可能であっても、裁判所は閉鎖事件における新たな申立てを審理対象としない。
  • 手続終結後に新たな申立てを行う場合は、まず事件の再開(reopening)を裁判所に申し立て、その裁量的許可を得る必要がある(デュッセルドルフ地方部 2026年6月8日決定 UPC_CFI_195/2025 参照)。原告は事件再開申立てを行っていないため、本申請は不適法として却下(disregarded as inadmissible)される。

2. 費用決定不要の合意による権利喪失(予備的理由1)

  • 裁判所費用(court fees)は、訴訟費用(costs)の一部を構成する(RoP第150条第1項、第151条(d))。
  • 当事者が裁判所に対し「費用に関する決定は不要」と通知し、終局決定にその旨が明記された以上、裁判所費用の還付を求める権利は放棄・喪失(forfeited)したものと解される。

3. 合理的期間(1か月)の徒過(予備的理由2)

  • RoP第370条第11項に明文の期間制限は規定されていないが、比例原則、柔軟性、公正・衡平の要請、およびUPC手続の迅速性(RoP前文第7項)に鑑み、終局決定後「実行可能な限り速やかに(as soon as practicable)」かつ合理的な期間内に申請されなければならない。
  • 裁判所費用が訴訟費用の一部である以上、手続終了後の還付申請は、費用決定の申立期間を定めたRoP第151条に準じ、終局決定から「1か月以内」に行われるべきである。終局決定から約2か月後の申請は遅滞しており認められない(無期限の申請許容や国内時効の適用は統一的適用の観点から不適切である)。

4. 他の地方部(Local Division)の裁判例の評価

  • 原告が依拠する他の地方部(デュッセルドルフ、ミュンヘン、ハンブルク等)の先例は、適法性(admissibility)について明示的な判断を行っておらず、統一された「確立した実務(practice)」を示すものではない。また、他地方部の判断は当地方部を拘束しない。
  • ただし、制度利用者に対する統一的法解釈の発展が望ましいことから、職権で控訴を許可する(RoP第220条第2項)。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 訴え取下げ時の還付申立実務の厳格化: 侵害訴訟の和解・取下げに伴い裁判所費用の還付(RoP第370条第9項)を求める場合、取下げ申立てと同時に還付申請を行うか、遅くとも手続終了決定から「1か月以内」に申請を行う必要がある。
  • 「費用決定不要」の安易な申出のリスク: 当事者間での費用負担合意に基づき「費用決定不要(no cost decision needed)」と裁判所に通知すると、裁判所費用(court fees)の還付請求権まで失権したとみなされるリスクがある。裁判所への通知文言において「公租公課・裁判所手数料の還付請求権は留保する」旨を明記するか、事前に還付手続を完了させる実務的配慮が不可欠である。
  • UPC各地方部間における実務の不統一と控訴審(Court of Appeal)の動向: 本決定は、閉鎖ファイルへの申請を柔軟に認めてきたハンブルクやデュッセルドルフ地方部等の実務運用に対し、手続的厳格性(事件再開申立ての要否・失権法理・1か月の期間制限)を厳格に求めた点に特徴がある。控訴が許可されており、今後UPC控訴裁判所による解釈統一が注目される。

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