【EPO 審判部(審判部 3.5.05) / 2026年5月13日】T 0382/25 - 電子タバコの放出制御機構に関する新規事項追加(EPC第123条(2))およびG 1/24に基づくクレーム解釈の抗弁に関する控訴審決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、JT International SA(特許権者・控訴人)が保有する欧州特許第2982255号(発明の名称:「Inhalation device including substance usage controls」)に対し、Lippert Stachow Patentanwälteほか2名(異議申立人・被控訴人ら)が異議申立てを行い、異議部が新規事項追加(EPC第100条(c) / 第123条(2)違反)を理由に特許取消決定を下した事案の控訴審である。 特許権者は、特許付与時のクレームを維持する主請求、および補助請求0〜11(補助請求0.1および11は控訴理由書で初提出)を掲げ、取消決定の破棄と特許維持を求めた。また、特許権者は係属中の拡大審判部付託事件(G 1/26)を理由とする審理停止、または拡大審判部への付託(EPC第112条(1)(a))を求めた。

2. 判決の主文

  1. 審理手続停止の請求を却下する。
  2. 拡大審判部への付託請求を却下する。
  3. 本件控訴を棄却する(特許取消決定を維持)。

3. 主な争点

  • 争点1: 主請求(および補助請求1〜10)クレーム1における補正がEPC第123条(2)に違反するか(中間的一般化の成否)、および拡大審判部決定G 1/24に基づく明細書参酌による限定的クレーム解釈により当該瑕疵を治癒できるか。
  • 争点2: EPC第123条(2)等へのG 1/24の適用関係をめぐり審理手続を停止すべきか、または拡大審判部へ付託すべきか(EPC第112条(1)(a))。
  • 争点3: 第一審で却下された補助請求0、および控訴審で初提出された補助請求0.1および11の審理対象への許容性(RPBA 2020 第12条(4)、第12条(6))。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) 主請求および補助請求1〜10のEPC第123条(2)違反

主請求クレーム1の特徴1.9「control the release of first substance based on the determined amount...」は、出願当初に開示されていた「release rate(放出率)」から「release(放出全般)」へと不当に一般化されたものである。この文言は、放出温度の制御や放出量の増加など広範な制御態様を包含するが、出願当初の明細書にはセンサおよびタイマのデータに基づく物質量に応じたこのような広範な制御の開示根拠は存在しない(中間的一般化に該当)。

特許権者は「G 1/24に従い明細書を参酌すれば、クレームの『control the release』は明細書の実施形態に即して『放出停止または放出率の低減(limit logic)』と狭義に解釈されるため新規事項追加には当たらない」と主張した。 しかし審判部は、G 1/24がクレーム解釈時に明細書・図面を常に参酌すべき旨を定めているとしても、クレームの文言上可能な範囲を超えて、明細書の特定実施形態に合致するようにクレームを限定解釈する権限を与えるものではない(T 2027/23引用)と判示した。特許権者の主張を認めると、あらゆる過度な一般化補正が「明細書に開示された範囲で狭く解釈される」ことになり、EPC第123条(2)の規定が形骸化・無効化(nugatory)してしまう(T 405/24引用)。したがって、主請求および同様の瑕疵を有する補助請求1〜10はEPC第123条(2)に違反する。

(2) 手続停止および拡大審判部への付託請求の却下

本件の争点は新規事項追加に関する確立された判例法に基づき十分に判断可能である。G 1/24のクレーム解釈の原則がEPC第123条(2)の判断にも妥当し得るとしても、明細書の一部を引用して限定解釈することで許されない補正を救済することはできない。したがって、別件(T 873/24)に基づく付託事件(G 1/26)の結論を待つ手続停止や新たな付託は不要である。

(3) 補助請求0、0.1、11の不許容(RPBA 2020 第12条(4)、第12条(6))

  • 補助請求0:第一審口頭審理期日での遅延提出であり、かつ一見して(prima facie)EPC第123条(2)違反を解消していないとして異議部が裁量により却下した判断に誤りはなく、控訴審でこれを審理対象に採り上げるべき正当な事由もない(RPBA 第12条(6)前段)。
  • 補助請求0.1および11:控訴審で初めて提出された補正(amendments)であるところ、異議部決定に対する適切な対応とは認められず、他事件を警戒した「念のための提出」等は控訴審の性質(第一審決定の司法審査)に反するため、審理対象から除外した(RPBA 第12条(4)、第12条(6))。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • G 1/24決定の適用限界の明確化(第123条(2)との関係): 拡大審判部決定G 1/24はクレーム解釈における明細書の参酌を義務付けているが、本判決(ならびに引用されたT 2027/23、T 405/24)は、「明細書を参照してクレームを文言よりも限定的に解釈し、中間的一般化(新規事項追加)の瑕疵を回避・治癒する抗弁」を一貫して否定した。ドラフティングおよび補正実務において、クレーム文言そのものが当初開示の直接的かつ一義的な範囲内に収まるよう厳格に記載・補正する必要性が再確認された。
  • RPBA 2020下における補助請求の提出戦略: 第一審の示唆や書面段階で予見可能であった論点について、第一審口頭審理や控訴審理由書に至ってから補正請求を追加・差替えても、RPBA第12条(4)・(6)により極めて厳格に排除される実務が定着している。

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