【Unified Patent Court (UPC) ハーグ地方支部 / 2026年07月29日】UPC_CFI_565/2024 (UPC-CFI-0002246/2025) - 特許権侵害訴訟における秘密保持クラブ(Confidentiality Club)の範囲およびライセンス交渉禁止条項(Licensing Bar)に関する決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、原告Koninklijke KPN N.V.(以下「KPN」)が、被告Oppo各社(Guangdong OPPO Mobile Telecommunications Corp.他4社、以下「Oppo」)に対し、欧州特許第2337403号および第3944587号に基づき提起した特許権侵害訴訟において、訴訟手続き上開示されるライセンス関連資料(Licence Materials)へのアクセス制限(秘密保持クラブ/Confidentiality Club)の範囲および付随義務が争われた中間手続である。

【当事者の申立ての骨子】

  • Oppoの申立て: ドイツ・デュッセルドルフ地方裁判所(LG Düsseldorf)における並行訴訟(事件番号: 4b O 27/22, 4b O 44/22)で合意された秘密保持体制(Geheimhaltungsvereinbarung)および終局命令(Final Order)に準拠することを前提に、特定の社内関係者に対し、ライセンス契約書および付属資料へのアクセス権を付与(秘密保持クラブ構成員の拡大)することを求めた。
  • KPNの申立て: Oppo社内関係者へのアクセスを厳格に限定された自然人(3名)に絞ることを要求。さらに、アクセスを付与された者に対し、秘密情報へのアクセス権を喪失した時点から5年間、当該ライセンス資料の相手方との特許ライセンス交渉への関与・助言を禁止する条項(Licensing Bar)を課すよう求めた。

2. 判決の主文

裁判所(担当裁判官/Judge-rapporteur)は以下のとおり決定した:

  1. 終局命令(Final Order)第12項に従い2026年7月10日までにライセンシーによる参加申立て(intervention)が認められないことを条件として、Oppoの訴訟代理人は、指定された範囲においてライセンス契約書および付属文書へのアクセスを許可することができる。
  2. 上記アクセスには、デュッセルドルフ地方裁判所での訴訟において当事者間で合意された秘密保持体制および終局命令と同一の秘密保持体制が適用される。
  3. (理由中にて)KPNが求めた5年間のライセンス交渉禁止条項(Licensing Bar)については、現段階では命令を発せず、KPNに対し本決定送達後2営業日以内の釈明、Oppoに対しその後の2営業日以内の答弁を命じる。

3. 主な争点

  • 争点1: 秘密保持クラブ(Confidentiality Club)の構成員拡大の許否
    退職等による社内事情を理由に、デュッセルドルフ地裁の並行訴訟体制を超えてアクセス対象者を拡大(5名から7名へ拡大)する必要性が疎明されているか。
  • 争点2: ライセンス交渉禁止条項(Licensing Bar)の付加の可否および要件
    秘密資料にアクセスした社内関係者に対し、事後5年間にわたり第三者とのライセンス交渉への関与を禁じる制限(Licensing Bar)を課すべきか。また、その文言およびデュッセルドルフ並行訴訟との整合性が確保されているか。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. 秘密保持クラブ拡大の否定(争点1について)
裁判所は、秘密保持クラブの構成員拡大を認める理由はないと判断した。

  • 本件手続においては、並行するデュッセルドルフ地裁の秘密保持体制と可能な限り一致(整合)させる方針がとられているところ、当該体制から逸脱(拡大)する必要性について十分な主張・疎明がなされていない。
  • Oppoの一部の従業員が退職したという事情があるとしても、現在もアクセス権を有する社内関係者が残存している。原告KPN側には秘密情報を知る自然人を5名から7名へと拡大させない自明の正当な利益が存在することに鑑みれば、現行体制では不十分である旨の具体的な根拠が示されない限り、範囲拡大は認められない。

2. ライセンス交渉禁止条項(Licensing Bar)の判断留保および釈明命令(争点2について)
裁判所は、KPNが申立てた5年間のライセンス交渉禁止条項について、直ちに命じることはせず、追加の釈明手続を命じた。

  • KPNの申立て文言(「any additional access」等)には曖昧な部分があり、現時点でアクセス権が認められる予定の3名の現職従業員に対しても当該5年間のライセンス交渉禁止を適用する趣旨であるかが判然としない。
  • 裁判所および当事者がデュッセルドルフ地裁の枠組みを参照・模倣(mirror)している以上、そのような禁止条項がデュッセルドルフ訴訟において実際に合意または命令されていたか否かについて、当事者の意見を確認する必要がある。
  • したがって、現段階では同条項の発令を見送り、KPNに対して本決定から2営業日以内の明確化(clarification)を求め、その後Oppoに2営業日以内の反論機会を与えることとした。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • UPC実務における並行国内訴訟(特にドイツ裁判所)との整合性:
    UPC(統一特許裁判所)の手続において、デュッセルドルフ地裁等の国内並行訴訟で合意された秘密保持体制(NDA/Geheimhaltungsvereinbarung)が存在する場合、UPCは原則としてその枠組みを尊重・平仄を合わせる(mirrorする)実務傾向を示している。当該合意と異なる制限・拡大を求める当事者は、高度な必要性の立証・疎明を求められる。
  • ライセンス交渉禁止条項(Licensing Bar)の厳格性:
    ライセンス契約書(他社との機密ロイヤルティ料率等)が証拠開示される標準必須特許(SEP)/FRAND訴訟等において、インハウス担当者に対する「Licensing Bar」は競業・職務執行に重大な制約を課すため、申立て文言の明確性と、並行手続における合意実績・比例原則の充足が厳しく審査される。

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