【UPC控訴裁判所 / 2026年8月17日】UPC-CoA-69/2026, UPC-CoA-71/2026, UPC-CoA-72/2026 - 証拠提出命令(R. 190 RoP)の却下に対する控訴期間および控訴審における再申立ての適法性に関する決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

当事者: 控訴人/原告 Network System Technologies LLC(以下「NST」)、被控訴人/被告 Qualcomm Incorporated ほか2名(以下「Qualcomm」)
対象特許: EP 1 552 399, EP 1 552 669, EP 1 875 683

NSTはQualcommに対し特許権侵害訴訟を提起し、訴訟手続の過程で統一特許裁判所手続規則(RoP)190条(統一特許裁判所協定(UPCA)59条)に基づき、QualcommのNoC技術に関連するソースコード等の証拠提出命令(以下「R. 190申立て」)を申し立てた。

ミュンヘン地方部(第一審)は、特許無効または非侵害の判断とともにNSTの請求を棄却する判決(Decision)を下した。その判決理由中において、NSTの主張は証拠開示のための十分な蓋然性を欠くなどとして、R. 190申立てを実質的に却下した(ただし、判決の主文[operative part]には同申立ての却下が明記されていなかった)。

NSTは、本案判決に対する控訴期間内(送達から2か月以内)に控訴を提起し、その中でR. 190申立ての却下に対する不服を述べるとともに、控訴審において改めてRoP 190条に基づく証拠提出命令を申し立てた。これに対し控訴裁判所は、R. 190申立て却下に対する控訴の適法性、および控訴審における新たなR. 190申立ての適法性について職権で審理した。

2. 判決の主文

控訴裁判所は以下のとおり決定(Order)した。

  • 原審判決におけるR. 190申立ての却下に対する控訴を、期間徒過により不適法として却下する。
  • NSTが控訴審において申し立てたRoP 190条に基づく証拠提出命令申立てを、不適法として却下する。

3. 主な争点

  • 争点1: 本案終局判決(Decision)に含まれる証拠提出申立て(RoP 190条 / UPCA 59条)の却下に対する不服申立期間
    (本案判決と同一書面で下された場合であっても、特権的命令として15日間の不服申立期間が適用されるか、本案判決と同様の2か月が適用されるか)
  • 争点2: 控訴期間徒過における「宥恕すべき過誤(Excusable Error)」の成否
    (第一審判決の教示の不備や主文からの脱落が、控訴期間の遵守免除を正当化する例外的事情に該当するか)
  • 争点3: 第一審で却下された証拠提出申立てと実質的に同一の申立てを控訴審で再申立てすることの適法性
    (RoP 222.2条および242.2(a)条に基づき、新事実の主張がない場合であっても控訴審での再申立てが許容されるか)

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. 証拠提出命令却下に対する控訴期間(15日間の適用)

  • UPCA 59条およびRoP 190条に基づく証拠提出に関する裁判所の判断は、法的に「命令(Order)」の性質を有する。
  • UPCA 73条(2)(a)およびRoP 220.1(c)・224.1(b)は、UPCA 59条等の特定の命令(いわゆる特権的命令 / Privileged Orders)に対する控訴期間を「送達から15暦日」と明確に定めている。この短期間制限は、本案手続への影響を考慮し手続の迅速化を図る趣旨である。
  • 本案判決という単一の書面(Decision)内に含まれて判断された場合であっても、あるいは判決の主文に脱落があった(単なる明白な誤記 / Obvious slipにすぎない)としても、証拠提出申立てに対する判断が「命令(Order)」であることに変わりはない(先行例:AIM v. Supponor事件)。したがって、本案判決の控訴期間(2か月)に吸収されて単一の判断(Uniform decision)になるわけではなく、当事者は15日以内に控訴を提起しなければならない。

2. 宥恕すべき過誤(Excusable Error)の不成立

  • 控訴期間は強制的な期間制限(Mandatory time limit)であり、原則として延長は認められない(RoP 9.4条)。裁判所の行為が決定的な要因となって当事者に混乱を生じさせたような例外的状況においてのみ「宥恕すべき過誤」が認められ得る。
  • しかし、控訴裁判所がすでに先行判例(AIM v. Supponor)で法令の解釈を明確にしていた以上、相応の注意を払う代理人(Representative exercising all due care)であれば15日の控訴期間を認識すべきであった。第一審裁判所が控訴教示を欠いていたとしても、それ自体は例外的事情を構成せず、NSTに過誤の宥恕は認められない。

3. 控訴審におけるRoP 190条に基づく再申立ての不適法性

  • 控訴審裁判所が第一審と同様の権限を行使し得る(RoP 242.2(a)条)としても、第一審で実質的に審理・却下された証拠提出申立てと実質的に同一の申立てを、正当化する「新事実(New facts)」なく控訴審で再提出することは許されない。
  • これを認めると、UPCAおよびRoPが定める厳格な控訴期間や不服申立ての制度趣旨を潜脱することになり、法的安定性および手続の効率性を害する。
  • 第一審段階で合理的に提出し得なかった「新事実」がある場合に限り、RoP 222.2条の類推適用により再申立てが許容され得るが、本件でNSTが主張した「侵害主張の更なる精緻化」「開示態様の変更」「判例の進展」は新事実に該当しない。したがって、控訴審における再申立ては不適法である。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 本案判決(Decision)と中間的命令(Order)の形式的混在への実務対応:
    第一審が本案終局判決と証拠提出命令(RoP 190条)や仮処分命令(UPCA 62条)等の特権的命令(Privileged Orders)を1つの「Decision」にまとめて言い渡した場合でも、特権的命令に該当する部分の控訴期間は「15日」である。本案の2か月期間と混同して徒過した場合、権利回復(Re-establishment of rights / RoP 320条)や宥恕の抗弁は極めて認められにくいため、受送達直後の峻別が不可欠である。
  • 却下された証拠提出申立てのリファイリング制限:
    第一審で証拠開示が認められなかった場合、適切な救済手段は「15日以内の適法な控訴」のみである。控訴審において実質的に同一の証拠提出申立てを再度行うことは、第一審段階で合理的に入手できなかった「客観的な新事実」を立証しない限り門前払い(Inadmissible)となる点に留意が必要である。

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