【UPC パリ地方支部 / 2026年07月30日】UPC_CFI_361/2025 (UPC_CFI_001785/2025) - 侵害訴訟および無効反訴における中間会議後の手続命令(R. 105.5 RoP)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、原告(Sun Patent Trust)が被告ら(Vivo Mobile Communication Iberia SL、Vivo Tech GmbH、およびVivo Mobile Communication Co., Ltd.)に対し、欧州特許第3 852 468号(以下「本件特許」)の特許権侵害に基づく差止および損害賠償請求等(侵害訴訟:UPC_CFI_361/2025)を提起し、これに対し被告らが本件特許の無効反訴(UPC_CFI_001785/2025)を提起した事案である。対象製品は、LTE-A規格を実装したVIVO製の4G+対応移動体端末である。
本命令(Order)は、統一特許裁判所手続規則(UPC Rules of Procedure; RoP)第105条5項に基づき、2026年7月29日に実施された中間会議(Interim Conference; R. 104 RoP)における協議結果および確定事項を報告・命令するために受命裁判官(Judge-rapporteur)により発出されたものである。

2. 判決の主文

受命裁判官は以下の通り命じる。

  • 1. 本件侵害訴訟(UPC_CFI_361/2025)の訴訟物価額(Value of the case)を500万ユーロ、無効反訴の価額を500万ユーロと定め、合計の合算訴訟物価額を1,000万ユーロ(10 million €)に設定する。
  • 2. 当事者は2026年8月28日までにCMSを通じて、(i) 書面手続終了時における各々の請求の主文(operative parts)をまとめた統合書面、および (ii) 償還可能費用(recoverable costs)の額に関する合意の確認書を提出しなければならない。

3. 主な争点

  • 争点1: 訴訟物価額の確定および審理・費用の枠組み設定(R. 104 (i), (j), (k) RoP)
  • 争点2: 口頭審理(Oral Hearing)の進行・構成および秘密情報(FRAND関係)の保護手続(R. 104 (d), (a) RoP)
  • 争点3: 本件特許(EP 3 852 468)のクレーム解釈(当事者技術者の定義、構成要件1.3および1.4の解釈)
  • 争点4: 本件特許の有効性(優先権の適否、引例N5/N6に対する新規性、ならびに訂正観測請求AR 4/AR 7の有効性)
  • 争点5: 本件対象製品(VIVO端末)による特許侵害の有無(構成要件1.3および1.4の充足性)
  • 争点6: FRAND防訴(Huawei v ZTE判例基準に基づくEU機能条約102条違反の抗弁)および是正措置・仮損害賠償請求の適法性・比例性

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) 訴訟物価額および手続的事項の確定(R. 104 RoP)

原告が主張する侵害訴訟の物価額(500万ユーロ)に対し、被告らに異議はなく、反訴も同額とすることに合意したため、総訴訟物価額を1,000万ユーロと確定した。また、書面手続の終了に伴う請求内容の明確化と費用合意の期限を2026年8月28日に定めた。

(2) 口頭審理の構造化と秘密保護(Non-public Hearing)

FRANDライセンス交渉に関する機密情報の十分かつ自由な論理展開を保障するため、裁判所は口頭審理(2026年9月9日〜11日)を分割編成することとした。

  • 第1日・第2日(9月9日・10日):公開審理(Public) - 技術的事項(クレーム解釈、特許の有効性/無効、侵害の有無)の審理。
  • 第3日(9月11日):非公開審理(Non-public) - FRAND防訴、差止・是正措置の比例性、仮損害賠償請求(500万ユーロ)および概算費用(60万ユーロ)の審理。

(3) クレーム解釈および主要論点の整理(R. 104 (a) RoP)

裁判所は、口頭審理において論理展開すべき主要な法的・技術的争点を以下の通り確定・整理した。

  • 当事者技術者(Person skilled in the art)の定義: モバイル通信分野で修士号または同等の学位を有し、数年の実務経験を持つエンジニア。既存技術および規格(特にLTEおよびLTE-Advancedの3GPP仕様)に精通している者。
  • 構成要件1.3の解釈:
    • 「サブフレームNにおけるDRX Active TimeまたはNon-Active Timeの決定」において、送信挙動の単純な観察で十分か(被告主張)、それとも過去の挙動に基づく状態決定とは異なり将来のサブフレームNのアクティビティ状態の予測を要するか(原告主張)。
    • 「サブフレームN-(4+k)までに受信したMAC CEに基づく」との文言について、それ以降に受信したMAC CEの考慮を排除しないオープンな解釈をとるべきか(被告主張)、限定的な解釈をとるべきか(原告主張)。
  • 構成要件1.4の解釈: DRX Active Timeにない場合の決定ロジックが、DRX Active Time時における対称的なCSI/SRS送信義務を暗黙に含意するか否か。
  • 有効性および訂正クレーム(AR 4 / AR 7): 優先権主張の適否の議論を踏まえ、引例N5(WO 2013/025147 A1)およびN6(TS 36.321 V11.1.0)に対する新規性の有無。また、予備的訂正請求(AR 4/AR 7)における「サブフレームN-(4+k)で推定された」との文言が決定ステップを当該単一サブフレームに限定するか否か。
  • FRAND抗弁: 原告の請求A.IIの許容性(Admissibility)、ならびにEU機能条約(TFEU)102条およびCJEUのHuawei v ZTE判決に基づくFRAND防訴の成否。

5. 実務上・判例上のポイント

1. UPC手続規則(RoP 104条・105条)に基づく効率的な審理管理(Case Management)の実践
本決定は、UPCにおける受命裁判官の強力なケースマネジメント権限を示す典型例である。中間会議を通じて争点を早期に絞り込み、口頭審理のタイムテーブルを分単位で厳格に管理する運用が定着していることが確認できる。

2. FRAND紛争における公開・非公開審理の分離運用
標準必須特許(SEP)訴訟において、ライセンス条件や他社とのライセンス契約等の機密情報が扱われるFRAND抗弁の審理について、技術論(公開)とFRAND論(非公開)を日程毎に明確に分離する手法が示されている。SEP実務においては、営業秘密保護の観点から非公開審理(Non-public hearing)を求める手続きのタイミングと根拠の整理において重要な先例となる。

3. 標準必須特許における技術的構成要件解釈の明確化
3GPP規格(LTE/LTE-A)の実装におけるDRX(不連続受信)制御ロジックに関し、「当事者技術者」の客観的定義を設定した上で、クレーム文言の「~に基づく(based at least on)」や時系列的な技術限定(サブフレーム関係)の解釈(オープン解釈か限定解釈か)が争点化されており、標準規格適合性(Standard Essentiality)と特許侵害・有効性論理の交錯を示す実務上重要な裁定プロセスである。

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