【UPC控訴審 / 2026年08月03日】UPC-CoA-692/2025, UPC-CoA-854/2025 - 特許権侵害訴訟及び無効反訴の双訴における裁判外和解に伴う控訴取下げおよび手続終了決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、特許権者である原告(Nera Innovations Ltd.)と、被告ら(Xiaomi関連法人4社)との間における欧州特許(EP 2 642 632)の侵害訴訟および無効反訴に関する控訴審手続である。

  • 原審の経過:ハンブルク地方裁判部(Lokalkammer Hamburg)は、2025年7月10日判決(UPC-CFI-173/2024, UPC-CFI-424/2024)において、原告の特許権侵害請求を棄却し、被告らの無効反訴を一部認め、特許を補助請求1および2の範囲(請求項1)を超える部分について無効とした。
  • 控訴の提起:原告は侵害請求棄却に対して控訴を提起し(UPC-CoA-692/2025)、被告らは無効反訴の決定に対して控訴を提起した(UPC-CoA-854/2025)。
  • 取下げの申請:控訴審の審理手続中、両当事者は裁判外での和解(außergerichtliche Einigung)に達した。これに伴い、両当事者はそれぞれ控訴の取下げ(Rücknahme der Berufung)を裁判所に申請し、相手方の取下げ申請に同意するとともに、訴訟費用についての決定を命じないよう求めた。

2. 判決の主文

I. 控訴の取下げを許可する。
II. 手続の終了を宣言する。
III. 本決定を登録簿に記録する。

3. 主な争点

  • 争点1: UPC手続規則(RoP)第265条に基づく控訴取下げ申請の可否及び許容性
  • 争点2: 当事者間の費用不請求合意が存在する場合における訴訟費用決定(RoP 265.2(c)条)の要否

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

裁判所(Spruchkörper 3:Ulrike Voß裁判長)は、以下の論理に基づき手続の終了を決定した。

  1. 控訴取下げの規範と適用(RoP 265条の準用):
    統一特許裁判所手続規則(Rules of Procedure: RoP)第265条1項(R. 265.1 VerfO)は、訴訟の終局判決が言い渡される前であれば原告が訴えを取り下げることができる旨を規定している。確立した裁判例(UPC-CoA-895/2026, UPC-CoA-896/2025 'Black Sheep/HL Display')に従い、同条項は控訴審における控訴の取下げ手続にも同様に適用される。
  2. 相手方の同意および不利益の不在:
    控訴人による取下げ申請に対し、被控訴人が同意を与えており、取下げを認めないこととする被控訴人側の正当な利益(対立する利益)は認められない。双方が裁判外和解の成立を報告していることから、控訴取下げの要件を満たすと判断された。
  3. 訴訟費用負担決定の不要件:
    RoP 265.2(c)条は取下げに際して費用負担決定を行う旨を定めているが、本件においては双方が裁判外和解に基づき「費用申立てを行わない(keine Kostenanträge stellen)」ことで合意し、これを合意内容として表明している。したがって、裁判所が新たな費用負担決定を行う必要はないと判示された。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • RoP 265条の控訴審への準用実務の定着:
    本決定は、訴えの取下げ(Withdrawal)に関するRoP 265条が控訴審における控訴取下げにも同様に適用されるという裁判例(Black Sheep事件等)の射程を再確認するものである。
  • 裁判外和解における費用条項の実務処理:
    UPC手続において裁判外和解(Out-of-court settlement)に伴い双訴・控訴を取り下げる場合、単に取下げ申請を行うだけでなく、当事者双方で「費用負担決定を求めない(no order as to costs / keine Kostenanträge)」旨を明確に合意して裁判所に提出することで、RoP 265.2(c)条に基づく補足的な費用決定(Cost decision)の手続を省略させ、迅速かつ確実に手続を終結(Terminated)させることができる。実務上の和解書面および申請書面の作成において極めて重要な示唆を与える判例的確認である。

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