【UPC Court of Appeal / 2026年08月04日】UPC-CoA-121/2026 - 費用決定に対する控訴許可申請および執行停止申請に関する決定(Academy of Military Medical Sciences v. Gilead Sciences, Inc.)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

第一審(UPC中央部ミラノ分室:CD Milan)における特許(EP 3 854 403)取消訴訟(UPC_CFI_552/2025)において、CD Milanは特許を全面的に取り消すとともに、当事者間で合意された第一審の回収可能費用(800,000ユーロ)全額を被告兼特許権者であるAcademy of Military Medical Sciences(以下「AMMS」)が負担すべき旨の決定を下した(2026年5月4日)。
原告であるGilead Sciences, Inc.(以下「Gilead」)は、上記費用800,000ユーロの4週間以内の支払いを求める費用決定申請(UPC-CFI-1968/2026)を提出した。これに対しAMMSは、取消判決に対する控訴審決定が確定するまでの費用手続きの停止(stay)、または分割払いを求めた(根拠:UPCA 74条2項、RoP 295条(c)(m)、RoP 156.3条)。
CD Milanは2026年7月10日、UPCA 74条2項に基づく自動的停止効果(automatic suspensive effect)は取消訴訟本案決定に限定され従属的な費用決定には及ばないと判示し、AMMSに対し4週間以内の費用支払いを命じた(原決定)。
AMMSは原決定を不服とし、UPC控訴審(Court of Appeal)に対し、費用決定に対する控訴許可(Leave to appeal:RoP 157条、221条)および決定確定までの執行停止/停止的効果(Suspensive effect:RoP 223条)を申請した。

2. 判決の主文

(i) 控訴許可(Leave to appeal)を与える。
(ii) 執行停止(Suspensive effect)の申請を棄却する。

3. 主な争点

  • 争点1: 控訴許可の要件(UPCA 74条2項の自動的停止効果が従属する訴訟費用確定決定に及ぶかという論点の新規性・重要性)
  • 争点2: 控訴審における執行停止(停止的効果:RoP 223条)の認容要件および「例外的事情(exceptional circumstances)」の立証の有無

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. 控訴許可(Leave to appeal)について
UPCA 74条2項は取消訴訟等の決定に対する控訴に自動的停止効果を認めているが、この自動的停止効果が取消決定に付随・関連する「訴訟費用決定(cost decision)」にまで及ぶか否かという問題は、UPC控訴審において未だ判例が確立していない未解決の法解釈論点である。したがって、本件について控訴許可を与えることが適当である。

2. 執行停止申請(Application for suspensive effect)について
UPCA 74条1項本文の原則通り、控訴の提起は原則として停止的効果(執行停止)を有しない。RoP 223条2項に基づき、申請者(AMMS)には停止的効果を認めるべき理由および事実・証拠の主張立証責任がある。
控訴審が原則を解除して例外的に執行停止を認めるのは、控訴審決定まで現状維持(status quo)を図る申請者の利益が、相手方の利益を例外的に上回る「例外的事情(exceptional circumstances)」が存在する場合に限られる(例:原決定が明白に誤っている場合、あるいは停止的効果を与えなければ控訴自体が形骸化・無意味化する場合:Sibio v Abbott, Suinno v Microsoft 等の判例参照)。
本件において、AMMSは単に原決定の不当性や控訴提起理由を繰り返すのみで、費用支払いを直ちに命じられることによって生じる不可逆的な損害などの「例外的事情」を何ら主張・立証していない。原決定の不当性自体は控訴審の本案において審理されるべき事柄であり、直ちに執行停止を正当化する理由にはならない。したがって、執行停止の申請は棄却される。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

1. UPCA 74条2項(自動的停止効果)の適用範囲に関する実務上の問題提起
特許取消判決に対する控訴における自動的停止効果が、本案のみならず従属する費用確定手続き・費用支払命令にまで及ぶのか否かという重要論点について、控訴審が本案で判断を示す姿勢を明確にした点に実務上の意義がある。

2. UPCにおける執行停止(Suspensive effect)の高度なハードルと実務上の留意点
本判決は、UPC控訴審における「非停止原則(UPCA 74(1)条)」の厳格運用を再確認している。原決定に対する不服理由(本案の勝訴蓋然性)を主張するだけでは足りず、金銭給付命令であっても「控訴審決定を待たずに支払うことで回復不能な損害が生じる」といった「例外的事情(exceptional circumstances)」を具体的証拠とともに立証しない限り、執行停止(RoP 223条)は認められない。控訴審実務において、控訴許可申請と執行停止申請の双方を行う場合、申立理由の厳密な使い分けと立証戦略が不可欠である。

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