【UPC (Lokalkammer Düsseldorf) / 2026年08月04日】UPC_CFI_1536/2026 - 査察・証拠保全手続における当事者間和解の裁判所確認および和解内容の秘密保持決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、統一特許裁判所(UPC)デュッセルドルフ地方裁判所において、特許権者である申請人(OTEC Präzisionsfinish GmbH)が、被申請人(ANCA Europe GmbH)による欧州特許第2 983 864号(EP 2 983 864 B1)の侵害を主張し、本案訴訟(Hauptsacheklage)の提起に先立ち査察および証拠保全手続を申し立てた事案である。

  • 事実経過: 申請人は2026年5月4日、展示会における査察および証拠保全命令(UPC手手続規則(RoP)192条等に基づく)を申請。同裁判所は同年5月6日に命令を発令し、翌5月7日、展示会「GrindingHub」(シュトゥットガルト)の被申請人ブースにて執行された。
  • 専門家報告書と開示: 裁判所選任専門家が2026年6月16日に作成した詳細な商品説明書(ausführliche Beschreibung)につき、裁判長(報告裁判官)は被申請人に異議申し立ての機会を与えたが、被申請人は「本案訴訟のみでの使用・第三者開示禁止」という限定条件の下、申請人への開示に異議を唱えない旨を回答した。
  • 和解の成立と申請: 2026年8月3日、両当事者は訴訟外で和解(Vergleich)が成立した旨を告知し、RoP 365条1項2文に基づき、裁判所に対して当該和解の裁判上の確認(Bestätigung des Vergleichs)および和解条項の秘密保持等を求める共同申請を行った。

2. 判決の主文

裁判所(Spruchkörper 1 der Lokalkammer Düsseldorf)は以下の通り決定した。

  1. 当事者の申請に基づき、RoP 365条1項2文に従い、当事者間で合意された和解(Vergleich)が成立したことを確認する。
  2. 本決定は担保を提供することなく仮執行することができる。
  3. 手続 UPC_CFI_1536/2026 は終了したことを確定する。
  4. 費用は和解条項に従い負担される。
  5. 和解の詳細内容は秘密として取り扱わなければならない(RoP 365条2項)。
  6. 和解契約書は、マスキング(黒塗り)された改訂版(geschwärzte Fassung)のみが登記簿(Register)に登録・公開される。

3. 主な争点

  • 争点1: UPC手続規則(RoP)365条1項2文に基づく当事者間和解の裁判所確認および債務名義化の要件
  • 争点2: 和解内容に関する秘密保持命令(RoP 365条2項)および公開登記簿におけるマスキング処理(Redaction)の可否と範囲

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

裁判所は以下の法理・ロジックに基づき、両当事者の申請を認容した。

(1) 和解の裁判所確認および執行力(RoP 365条1項2文)

RoP 365条1項2文に基づき、当事者双方から申請があった場合、裁判所は当事者間で締結された和解を確認する決定を下す。当該裁判所の確認決定は、UPC協定(UPCA)および手続規則上、確定判決(Endentscheidung)と同等の法的効力を有し、相手方に対して直接強制執行(vollstreckbar)が可能となる債務名義を形成する。訴訟費用についても当事者間の合意に従う。

(2) 和解内容の秘密保持および登記簿へのアクセス制限(RoP 365条2項、RoP 262条)

RoP 365条2項に基づき、裁判所は和解の具体的条項・詳細を秘密(vertraulich)として扱うよう命じることができる。
第三者による裁判文書閲覧請求(RoP 262条1項(b))に対する手続(RoP 262条2項に基づく決定)が行われるまでの間であっても、当事者の事業上・競争上の秘密保持利益(Vertraulichkeitsinteressen)は十分に保護されるべきである。
したがって、裁判所による秘密保持命令を出すとともに、公衆がアクセス可能な裁判所登記簿(Register)には、和解契約の「マスキング(黒塗り)版」のみを登録・掲載することが認められる。この運用は、UPC控訴審(Court of Appeal)の定着した判例法理(UPC_CoA_120/2025, 2025年6月3日決定「Tandem Diabetes v. Roche」UPC_CoA_46/2025, 2025年6月23日決定「Arkyne v. Plant-e」)に依拠するものである。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 本案前証拠保全手続(Saisie-contrefaçon)における和解解決の実務化: 本案訴訟の提起前であっても、査察(Inspektion)命令の執行および専門家報告書の提出を経た段階で当事者間の交渉により早期和解に至ることが可能であり、RoP 365条を利用して執行力のある決定を得られることが明確に示された。
  • UPCにおける公開原則と和解の秘密保持の調和: UPCでは裁判文書の原則公開(RoP 262条)が掲げられているが、当事者の合意による和解内容(特にライセンス料、解決金等の金銭的条件や製品変更約束等)については、RoP 365条2項および黒塗り版(Redacted version)の登記により厳格に秘密が保護される。代理人としては和解の裁判所確認を申請する際、必ず秘密保持命令および黒塗り版の登記申請をセットで行うべきである。

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