【UPC 地方部ミュンヘン / 2026年7月27日】UPC_CFI_1751/2026, UPC_CFI_1752/2026 - 証拠保全・査察命令(Art. 60 UPCA)の事後審査および秘密保持措置の補正申立事件

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

当事者:申立人(原告:Reinhausen GmbH、ドイツ)は単一効欧州特許(EP 3 427 284 B1、抵抗器式負荷時タップ切換器)の特許権者。被申立人(被告:Shanghai Huaming Power Equipment Co., Ltd.、中国)は電気機器メーカー。
事実経過:

  • 被申立人は、ベルリンで開催された国際見本市「CWIEME 2026」において、自社製タップ切換器「DET-24kV」を展示した。
  • 申立人は、本案訴訟提起の準備として、2026年5月19日に被申立人ブースにおける証拠保全および査察(UPC協定60条、手続規則(RoP)192条以下)を裁判所に申請した。
  • ミュンヘン地方法務部は2026年5月20日、被申立人の審問を経ずに(ex parte)、現物査察、分解、計測、関連資料押収等を許可する命令を発出・執行した。
  • 被申立人は2026年6月19日、RoP 197.3に基づき当該決定の再審査(Überprüfung)を申し立てた。被申立人は査察そのものの適法性は争わないものの、査察に立ち会った申立人代理人(弁護士・弁理士)に対して秘密保持命令が課されていない点に重大な保護の欠落があるとして、命令条項の補正(代理人に対する守秘義務の付加、鑑定人との接触禁止条項の追加等)を求めた。

2. 判決の主文

裁判所は、被申立人の再審査申立を一部認め、2026年5月20日付の証拠保全・査察命令を以下のとおり補正・変更した。

  • 第10項の変更:査察・証拠保全手続において得られた被申立人の営業秘密について、裁判所選任の鑑定人、補助者、執行官に加え、「申立人代理人」に対しても、申立人本人・その従業員および第三者に対する厳格な秘密保持義務を課す。
  • 第12項の変更:申立人代理人が鑑定人の作成した記述書(説明報告書)を裁判所から受領した際、裁判所の開示許可等がない限り、当該情報を申立人本人、その従業員および第三者へ開示することを禁止する。
  • 第10項への条項追加:申立人、その代理人および関係者は、鑑定対象物および鑑定報告書に関し、裁判所選任鑑定人と協議・接触してはならない。また、鑑定人は本案裁判所からの追加命令がない限り、対象物の追加検査を行ってはならず、現状を有姿のまま保持しなければならない。
  • その余の申立(本案不提起時の返還等に関する申立は取下げ、費用等に関する申立)は却下し、原決定の残余部分を維持する。

3. 主な争点

  • 争点1: 再審査手続(RoP 197.3)における秘密保持条項の補正請求の適法性・権利保護の利益
    命令全体の取消しではなく、秘密保持措置の補充・修正のみを求める再審査申立が適法か。
  • 争点2: 査察立会いを認められた申立人代理人に対する秘密保持義務の要否
    特許侵害の成否に直接関係しない技術情報の流出を防ぐため、申立人代理人(弁護士・弁理士)自身にクライアント(申立人本人)や第三者に対する守秘義務を裁判所命令として明示的に課す必要があるか。
  • 争点3: 再審査段階における被申立人の秘密性立証責任の程度
    展示会に出品されていた機器について、事後審査において被申立人が個々の技術情報および秘密保持利益を具体的に特定・疎明する必要があるか。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. 申立の適法性(争点1)について:
RoP 197.3に基づく再審査は、証拠保全命令の発出要件の有無のみならず、RoP 196.1第2文および197.3第3文が規定する「秘密保持体制の内容」を是正・補正するためにも申し立てることができる。原決定の文言上、被申立人が意図する保護が十分に図られているか疑義がある以上、権利保護の利益(Rechtsschutzbedürfnis)は認められる。

2. 申立人代理人に対する秘密保持命令の必要性(争点2)について:

  • UPC協定第60条第1項・第5項に基づき、とりわけex parteで証拠保全を命じる場合、裁判所には相手方の秘密情報を保護する厳格な義務が課されている。
  • 査察・分解作業の過程では、特許侵害立証には不要であるものの被申立人にとっては機密性の高い技術情報(内部設計・ノウハウ等)が申立人代理人に認識される可能性が不可避的に存在する。
  • 原決定において、申立人代理人に対して直接の守秘義務を課していなかったのは裁判所の過誤・脱落(versehentlich versäumt)であり、鑑定人作成の報告書の開示規制(原決定第12項・14項)のみでは査察現場で代理人が直接知り得た未記録の機密情報をカバーできないため、代理人に対する守秘命令を明文で補正・追加する必要がある。

3. 被申立人の秘密性の疎明と展示会出展の影響(争点3)について:

  • 対象製品は展示会場に置かれていたものの、アクリル板(Plexiglas)越しであり、外郭ケーシングが存在したため、内部構造が一般公衆に無制限に公開されていたとはいえない(査察・分解によって初めて露出した内部情報が存在する)。
  • ex parte命令の事後審査手続において、被申立人に対して「申立人が査察でどの情報を認識したか」を推知させた上で、具体的な秘密保持利益を個別に特定・立証させることは不合理かつ訴訟不経済である。侵害立証に必要な情報は鑑定人報告書を通じて適切に開示手続(RoP 13条等)に乗るため、申立人の権利を害することはない。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • UPCにおける証拠保全(Saisie-type)の実務標準:
    UPC協定60条に基づく査察命令では、申立人の弁護士・弁理士の立会いが認められるケースが多いが、本決定は「代理人と申立人当事者本人(クライアント)との間の完全な情報遮断(Information Barrier)」が命令上不可欠であることを明確に確認した。代理人であっても、裁判所の開示決定を経ない限り、査察で知得した情報をクライアントへ伝達することは禁止される。
  • 展示会出品物における機密性の残存:
    展示会で公開展示されている機器であっても、分解しなければ視認できない内部構造・寸法・測定値等については営業秘密(秘密情報)としての法的保護が維持される点が実務上再確認された。
  • 鑑定人の独立性と一方当事者接触の禁止:
    証拠保全実施後、本案訴訟に至るまでの間に申立人側が裁判所選任鑑定人と一方的に協議すること、および鑑定人が裁判所の指示なく追加調査を行うことを厳格に禁じる条項が盛り込まれた点も、実務上極めて重要な先例的意義を有する。

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