【UPC第一審裁判所長 / 2026年8月11日】UPC_CFI_2082/2026 - 訴訟言語の英語(特許付与言語)への変更申立(UPCA 49条(5)、RoP 323条)認容決定

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、原告ら(BF exaQC AGおよびParTec AG:いずれもドイツ法人、中小企業/SME)が、欧州特許(EP3614263およびEP2164678)に基づき、被告ら(Google LLC[米国]およびGoogle Germany GmbH[独国])を相手方として、統一特許裁判所(UPC)マンハイム地方部(Local Division Mannheim)にドイツ語で提起した特許侵害訴訟に端を発する。
被告ら(Google)は、UPC協定(UPCA)第49条(5)および手続規則(RoP)第323条に基づき、訴訟言語をドイツ語から特許付与言語である「英語」に変更することを求める手続上の申立て(Application)を行った。
これに対し原告らは、当事者4社中3社がドイツ所在であること、自らがSMEであること、先行する別件決定(UPC_CFI_627/2024)においてドイツ語による審理が維持されたこと等を理由に申立ての却下を主張し、予備的に翻訳費用の被告負担等の条件付与を求めた。

2. 判決の主文

  1. 訴訟言語を、特許付与言語である「英語」に変更する。
  2. 本命令において、特別な翻訳または通訳の手配(条件)は付さない。

3. 主な争点

  • 争点1: UPCA第49条(5)およびRoP第323条に基づく訴訟言語の変更要件(公平性および諸般の事情の衡量)を満たすか
    原告がSMEであり当事者の主たる拠点がドイツにある一方、被告(多国籍企業)の社内公用語が英語であり、かつ原告が他事件で英語による訴訟を遂行している事情をいかに考慮・比較衡量すべきか。
  • 争点2: 訴訟言語変更に際し、RoP第323.3条および第324条に基づく翻訳・通訳手配等の付帯条件を命じるべきか

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

裁判所長(President of the Court of First Instance)は、以下の論理に基づき、言語変更を認容した。

(1) 規範および判断枠組み(UPCA 49条(5)、控訴裁判所判例)

  • 訴訟言語変更は単なる便宜や主観的選好ではなく、原告が選択した言語によって「相手方が防御の準備において著しい不利益(significantly disadvantaged)を被るか」という公平性の観点から客観的諸事情を総合評価する(UPC_CoA_101/2024、UPC_CoA_354/2024参照)。
  • 利益衡量の結果が拮抗する場合、提訴時期や言語を選択できる柔軟性を持つ原告に対し、厳格な防御期間(タイムライン)に直接拘束される「被告の立場(position of the defendant)」が決定打(decisive factor)となる。
  • 特許権者は付与言語を選択した経緯があるため、原則として付与言語での訴訟遂行は原告にとって不公平とはみなされない。

(2) 本件事実に対する当てはめ

  • 技術分野および用語の性質:対象特許の技術分野(異種計算資源の割当・クラスタ処理等)において英語が一般的標準言語であり、引用文献や訴状内の専門用語も英語に依拠している。
  • 被告側の手続的不利益:Googleグループの社内公用語は英語であり、厳格な答弁書提出期限の中で、訴状・証拠の英訳およびドイツ語での裁判所提出書面作成・技術部門との調整を行うことは、重大な時間的・組織的負担(構造的不利益)を強いる。
  • 新事情(原告の英語訴訟遂行能力の実証):過去の決定(UPC_CFI_627/2024)では原告のSME性やドイツ所在が考慮されたが、その後、原告らは同一特許等に基づきミュンヘン地方部およびデュッセルドルフ地方部において自ら「英語」を選択して並行訴訟を提起した事実(新事情)が認められる。これにより、原告らには英語で訴訟を遂行する十分な能力(capacity to litigate in English)があることが実証されており、英語への変更が原告に過度な不利益を与えるとはいえない。
  • 手続の段階:本件手続は初期段階にあり、言語変更によって訴訟遅延は生じない。

(3) 付帯条件の要否(RoP 323.3条、324条)

訴状の英訳は既に存在しており、現段階で翻訳費用の負担等の特別な手配を命じる必要性・合理性はない。口頭弁論時の同時通訳については、必要に応じRoP第109条に基づき裁判長(Judge-Rapporteur)に対して後から申立てを行うことが可能であるため、本決定の付帯条件とはしない。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • SME保護と「他訴訟での英語使用実績」の相互関係: UPC実務上、中小企業(SME)のアクセス・トゥ・ジャスティス確保は重要な要素であるが、他部(他事件)で英語での提訴実績がある場合、SMEであることを理由とする母国語維持の主張は説得力を失い、英語訴訟能力が推認されるという重要な先例判断を示した。
  • 被告のタイトな答弁期限と多国籍企業の社内言語: UPCの厳格な手続進行(訴状受領後3か月以内の答弁書提出等)において、グローバル企業が技術・法務部門と連携するための翻訳負担は、UPCA第49条(5)の「被告の立場」を基礎づける実質的な手続的不利益として裁判所に強く認識されている。
  • 実務的示唆(原告側): 同一パテントファミリーや同種技術事案で複数地方部に並行提訴を行う場合、一国(一部)で英語を選択すると、他部で現地語(ドイツ語等)を選択していても、被告からのRoP 323条申立てを防御することが極めて困難になる点に留意すべきである。

0 件のコメント:

コメントを投稿

【UPC Court of Appeal / 2026年08月28日】No. UPC-CoA-678/2025 - 特許補正手続の許容性、先行技術に基づく進歩性、およびUPCA非締約国における特許侵害管轄・立証責任に関する控訴審判決

1. 事案の概要(事実経過・請求内容) 当事者: 控訴人(第一審原告)は、スロージューサー市場で事業を展開する韓国法人Hurom Co., Ltd.(以下「HUROM」)。 被控訴人(第一審被告)は、韓国法人NUC Electronics Co., Ltd(以下「NUC Ko...