【UPCデュッセルドルフ地方部 / 2026年8月13日】UPC_CFI_256/2025 - 本案訴訟係属中における暫定措置手続の費用確定手続の中止命令(RoP 295条(m))

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

【当事者】
・申立人(特許権者):bioletic Holding GmbH & Co.KG.
・被申立人(被疑侵害者):Light Guide Optics Germany GmbH、S.I.A. LIGHTGUIDE International
・対象特許:欧州特許第3685783号(EP 3685783)

【事実経過および手続の経緯】

  1. 申立人は、統一特許裁判所(UPC)デュッセルドルフ地方部に対し、一方的手続(ex parte)による暫定措置(仮処分命令)を申し立てたが、同地方部は2024年9月6日付命令(UPC_CFI_486/2024)によりこれを却下し、申立人に費用負担を命じた。
  2. 申立人はこれを不服として控訴したが、UPC控訴裁判所は2025年2月24日付命令(UPC_CoA_540/2024)により控訴を棄却し、控訴手続における費用負担も申立人に命じた。
  3. 他方、申立人は2024年11月20日、UPCミュンヘン地方部に本案たる特許侵害訴訟を提起し、現在同地方部において本案訴訟および無効反訴が係属中である(UPC_CFI_714/2024、UPC_CFI_155/2025)。
  4. 被申立人は、デュッセルドルフ地方部に対し、上記不服申立手続等に係る訴訟費用の確定申立て(Kostenfestsetzungsantrag)を行った。

2. 判決の主文

  1. 暫定措置手続(UPC_CFI_486/2024)における訴額(Streitwert)を1,000,000ユーロに設定する。
  2. 費用確定手続(UPC_CFI_256/2025)を、ミュンヘン地方部における特許侵害訴訟および無効反訴(UPC_CFI_714/2024、UPC_CFI_155/2025)に関する終局的判決が確定するまで中止(Aussetzung)する。

3. 主な争点

  • 争点1:暫定措置手続の訴額の決定
    正式な命令で定められていなかった暫定措置手続の訴額をいかに認定すべきか。
  • 争点2:本案訴訟係属中における暫定措置費用確定手続の可否および取扱い
    暫定措置手続が終了した一方で本案訴訟が別個に係属している場合、費用確定手続を先行して進めるべきか、あるいは本案判決確定まで中止(または却下)すべきか(UPC手続規則(RoP)規則295条(m)の適用)。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

1. 費用確定手続の適法性
被申立人の費用確定申立ては適法な期間内になされており、控訴裁判所に重複して係属している事実も認められないため、形式的要件を充足し適法である。また、暫定措置手続の訴額については当事者間に争いがなく、1,000,000ユーロと確定した。

2. 訴訟経済および裁判の一体性に基づく手続中止の判断(RoP 295条(m))
UPC控訴裁判所の確立した先例(SharkNinja v. Dyson 事件 UPC_CoA_297/2024、Hanshow v. VusionGroup SA 事件 UPC_CoA_618/2024)によれば、暫定措置手続に係る費用確定手続は本案訴訟の終結まで留保・中止されるべきである。

  • 比例原則と柔軟性の確保:暫定措置手続に引き続いて本案訴訟が提起された場合、訴訟費用の判断は訴訟全体の結果を踏まえて一元的に行われるべきである。別個に費用確定を反復審理することは裁判所のリソースを過度に拘束し、手続の遅延と非効率を招く。
  • 実務的経緯および別地方部係属の考慮:過去の同種事案の趨勢として、暫定手続及び本案第一審を経て当事者間で訴訟費用を含めた裁判外の包括的和解が成立するケースが多い。さらに本件では本案訴訟がミュンヘン地方部に係属しており、事案に最も精通した本案担当部に費用手続が移送・処理される可能性も考慮される。
  • 中止(Aussetzung)の妥当性:ミラノ地方部のように本案係属を理由に費用申立て自体を却下する見解もあるが、適切な司法運営(ordnungsgemäße Rechtspflege)の観点および申立人・被申立人の手続的権利への制限を最小限に抑える観点から、RoP 295条(m)に基づく「本案確定までの手続中止」が最も適切であると結論付けた。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • UPCにおける暫定措置と本案訴訟の費用確定実務:仮処分手続で勝訴(または敗訴)して費用負担命令が下された場合であっても、本案訴訟が併行して係属している限り、費用確定手続(Cost Decision / Kostenfestsetzungsverfahren)は本案の最終結果が出るまで中止(Stay)される運用がUPCにおいて定着しつつあることを示している。
  • 地方部間の見解差(中止 vs 却下):ミラノ地方部が暫定措置の費用申立てを実体審査なしで「却下」する実務を採用しているのに対し、デュッセルドルフ地方部は権利保全および手続上の負担軽減の観点からRoP 295条(m)による「中止」を選択しており、地方部間でのアプローチの差異に留意が必要である。
  • 他地方部に本案が係属する場合の留意点:暫定措置を申し立てた地方部と異なる地方部に本案訴訟が提起された場合であっても同様の法理が適用され、最終的な費用清算は本案訴訟地への移送や包括的和解に委ねられる可能性が高い。

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