【統一特許裁判所控訴裁判所(UPC Court of Appeal) / 2026年08月19日】UPC-CoA-908/2025, UPC-CoA-909/2025, UPC-CoA-918/2025 - EP 2 755 901の特許権侵害訴訟および特許無効反訴に関する控訴審判決

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、鶏卵の陳列・流通パッケージおよびその製造方法に関する欧州特許(EP 2 755 901、以下「本件特許」)の特許権者である原告・控訴人(Hartmann)が、被告・被控訴人(Omni-Pac)による鶏卵用包装容器「ComPac」(被告製品)の製造・販売行為が本件特許(クレーム1、5、6、8)を侵害しているとして、差止、廃棄、損害賠償等を求めてデュッセルドルフ地方部(第一審)に提訴した事案である。 これに対し被告Omni-Pacは非侵害を主張するとともに、先行技術(GDM1、GDM6等)に基づく新規性・進歩性欠如を理由として特許無効の反訴を提起した。

第一審は、物に関する独立クレーム1(付与時)について先行技術GDM1に照らし進歩性を欠くとして無効とした一方、補助請求2による限定補正(フック係合構成等の追加)を認めて維持し、製造方法に関する独立クレーム6(付与時)については有効と判断した。その上で、被告製品はクレームの構成要件を充足しないとして侵害請求を棄却した。 この第一審判決に対し、双方が控訴した(Hartmannは侵害棄却およびクレーム1等の無効判断に対して控訴[908/2025, 909/2025]、Omni-Pacは特許の一部維持判断に対して全無効を求めて控訴[918/2025])。

2. 判決の主文

  1. Hartmannの控訴(UPC-CoA-908/2025 および UPC-CoA-909/2025)をいずれも棄却する。
  2. 第一審判決(UPC_CFI_377/2024)の主文A項を取り消し、本件特許(EP 2 755 901 B1)を、補助請求2のクレーム文言(クレーム1〜8)を超える部分について無効とする(※クレーム6付与時も無効とし、補助請求2の範囲でクレーム1および6を維持)。
  3. 侵害訴訟控訴審の費用はHartmannが負担する。無効反訴控訴審の費用はHartmannが75%、Omni-Pac各社がそれぞれ12.5%を負担する。
  4. その他の請求を棄却する。

3. 主な争点

  • 争点1: 控訴審における新事実・新証拠・新法的主張の許容性(UPC手続規則[RoP]第222条2項)
  • 争点2: 本件特許クレームの解釈(「上方に延びる保持突起」が従来の「可撓性閉塞フラップ」を排除するか否か)
  • 争点3: クレーム1およびクレーム6の特許性(先行技術GDM1・GDM6に対する進歩性・新規性、および補助請求2の有効性)
  • 争点4: 被告製品による特許権侵害の成否(文言侵害および均等論)

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) 訴訟手続上の判断(新主張・新証拠等の許容性)

  • 新たな法的主張: Hartmannによるクレーム解釈に関する新主張について、クレーム解釈は「法の問題(matter of law)」であり、第一審で提出された事実・証拠に基づく限り、RoP第222条2項による制限は受けず適法である。
  • 新証拠(Annex 31〜34)の却下: Hartmannが控訴審で新たに提出したパルプ材の特性等に関する証拠は、第一審段階で合理的に提出し得たものであり、かつ関連性も低いため、RoP第222条2項の裁量により却下された。
  • 第一審主張の包括的引用: 控訴状において第一審の主張を包括的・一般的に引用することは、第一審判決が判断を示していない事項を除き不十分であり、判決の誤りを具体的に論証しない限り不適法となる。

(2) クレーム解釈(欧州特許条約[EPC]第69条および解釈議定書)

  • クレーム解釈は文言の厳格な文字通りの意味のみに拘束されず、明細書および図面を常に参酌して当業者の視点から行うべきである(UPC_CoA_335/2023 NanoString判決の法理)。
  • クレーム1の「上方に延びる保持突起(retainment projection)」は、明細書における課題(機械による一動作での確実な閉塞、材料費・輸送費削減)および従来技術との差異の記載に照らし、従来の「ヒンジ付きの可撓性閉塞フラップ(flexible locking flap)」を排除する構造であると解釈される。

(3) 特許性の判断(進歩性および新規性)

  • クレーム1(付与時)の進歩性欠如: 先行技術GDM1には容器の材質(繊維材料/パルプ材)を除く全構成が開示されている。卵用包装容器においてパルプ材を選択することは当業者の技術常識・慣用手段であり、特段の阻害要因もないため進歩性を欠く。
  • クレーム6(付与時)の進歩性欠如: 製造方法クレーム6について、成形時の変形を補償するための突起と開口の位置合わせステップ(構成6.3)は、パルプ成形に伴う変形が周知である以上、当業者が日常的な製造環境での試行錯誤により容易に到達し得るものであり、GDM1および技術常識に基づき進歩性を欠く(第一審の有効判断を変更)。
  • 補助請求2(クレーム1および6)の特許性: ノーズが「開口部の下縁に引っ掛かるフック(hook)として機能する」構成を追加した補助請求2は、GDM1においてフック状係合の開示や示唆がなく、当業者が容易に想到し得ないため進歩性を有する。また、製造工程の特定特徴を欠く先行技術GDM6に対しても新規性を有する。

(4) 侵害成否の判断

  • 控訴審においてHartmannは均等侵害の主張を維持せず、文言侵害のみが審理対象とされた。
  • 被告製品「ComPac」は可撓性閉塞フラップ(flexible closure flap)を備えており、本件特許が規定する「上方に延びる保持突起」(可撓性フラップを排除する構造)を有しない。
  • したがって、被告製品は有効に維持された補助請求2に係るクレーム1および6の構成要件を充足せず、特許権を侵害しない(第一審の請求棄却判断を維持)。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • UPC控訴審におけるクレーム解釈の法的性質と審理範囲(RoP 222.2条の適用): クレーム解釈は「純粋な法の問題」と位置付けられており、第一審の事実記録に基づく限り、控訴審で新たな解釈論を展開することは遮断されない。他方で、事実や証拠の追加提出には厳格な正当化要件が課される。
  • 明細書の課題・従来技術の対比記載によるクレーム限定解釈: 明細書において従来技術(本件では可撓性フラップ)の欠点を明示し、その排除により課題を解決する旨が技術思想として明確に記載されている場合、クレーム文言上は直接排除されていなくとも、当業者の理解として当該従来構成が排斥される解釈基準が明確に適用された。
  • 一般的引用(Blanket reference)の制限: 控訴理由書において第一審の主張書面を包括的に引用・援用する手法は認められず、第一審判決のどの判断がなぜ誤りであるかを個別に摘示・論証しなければ、審理対象から除外(不適法化)される実務上の厳格性が再確認された。

0 件のコメント:

コメントを投稿

【UPC Court of Appeal / 2026年08月28日】No. UPC-CoA-678/2025 - 特許補正手続の許容性、先行技術に基づく進歩性、およびUPCA非締約国における特許侵害管轄・立証責任に関する控訴審判決

1. 事案の概要(事実経過・請求内容) 当事者: 控訴人(第一審原告)は、スロージューサー市場で事業を展開する韓国法人Hurom Co., Ltd.(以下「HUROM」)。 被控訴人(第一審被告)は、韓国法人NUC Electronics Co., Ltd(以下「NUC Ko...