【UPC Lokalkammer München / 2026年8月03日】UPC_CFI_675/2025, UPC_CFI_1340/2025 - 家具用ヒンジ特許に関する侵害訴訟および無効反訴の中間審理後手続命令

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

当事者:原告(Julius Blum GmbH・オーストリア) vs 被告(Arturo Salice S.p.A.・イタリア)
対象特許:EP 3 392 438(家具用ヒンジに関する特許)
管轄地域:オーストリア、ドイツ、イタリア、スロベニア

事実経過および請求内容: 原告Blumは、被告Saliceがオーストリア、ドイツ、イタリアおよびスロベニアにおいて対象特許の請求項1, 2, 3, 4, 5, 16を侵害しているとして、2025年7月28日に侵害訴訟(本訴)を提起した。これに対し被告Saliceは、侵害を争うとともに答弁書において当該対象特許の上記請求項全般の無効を求める無効反訴(Nichtigkeitswiderklage)を提起した。原告は無効反訴に対抗するため、7つの予備的請求(Hilfsanträge: HA1〜HA7)を提出して特許を維持する姿勢を示した。
裁判部(Spruchkörper)は本訴と無効反訴を併合して審理することを決定し、書面審理が2026年4月28日に終了した後、2026年7月31日にビデオ会議にて中間審理(Zwischenanhörung)を実施した。本件命令は、当該中間審理を経て報告裁判官(Berichterstatter)であるMatthias Zigann裁判長により発せられた手続命令(R 105.5 VerfO)である。

2. 判決の主文

裁判所の命じた決定(手続命令の主文):

  • 口頭弁論期日:2026年10月1日午前9時(ミュンヘン)に実施することを確定し、当事者を呼び出す。
  • 書面提出期日:原告は本指示事項に対応する追加準備書面を2026年8月14日までに提出でき、被告はこれに対する弁駁書面を2026年8月28日までに提出できる。
  • 準備書面の制限:各書面の提出上限は10ページ(従来フォーマット)とする。
  • 口頭弁論用資料:プレゼンテーション資料および出席者リスト(役職明記)を2026年9月24日までに裁判所および相手方に送付すること。
  • 遅延主張の取扱い:これまでに双方から提出されCMS(事件管理システム)上にある全ての弁論・主張の提出を全面的に許可(認容)する。
  • 訴額の決定:本訴の訴額を330万ユーロ、無効反訴の訴額を495万ユーロとし、全体訴額(Gesamtstreitwert)を825万ユーロに確定する。

3. 主な争点

  • 争点1: 訴額(Streitwert)の算定基準と1.5倍ルールの適用
  • 争点2: 期限後に提出された主張・事実(verspäteter Vortrag)の許容性
  • 争点3: クレーム解釈および進歩性判断におけるアプローチ(EPO手法 vs. UPC控訴裁判所手法)
  • 争点4: 訴訟費用に関する当事者間での中間和解の有効性
  • 争点5: 言語・通訳費用の負担(審理言語と当事者通訳)

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

裁判所(報告裁判官)は、中間審理における議論を踏まえ、以下のロジックに基づき手続上の判断および定立を行った。

1. 訴額算定および費用合意(1.5倍ルールの原則適用):
本訴の訴額330万ユーロに対し、無効反訴の訴額算定においては実務上の原則である「1.5倍ルール(1.5-Regel)」を適用し、495万ユーロ(合計825万ユーロ)と算定した。被告は反訴訴額を同額の330万ユーロと主張したが、1.5倍ルールを不適用とするに足る具体的な事由の主張立証がなされなかったため、原則通り確定された。なお、当事者間で成立した「勝訴当事者に対する定額代理人費用弁済額を48万ユーロとする」中間和解(Zwischenvergleich)についてはこれを尊重した。

2. 時機に遅れた攻撃防御方法の許容(一括承認のロジック):
期限外に提出された弁論(verspäteter Vortrag)の扱いについて、裁判所は「個別に精査して採否を選択する(区分的検討)のではなく、全却下か全許容かの二者択一をとる」方針を示した。双方当事者がCMS上に存在する全弁論の許容に同意したため、裁判所はこれら全ての遅延主張を一括して訴訟資料として承認した。

3. クレーム解釈と進歩性アプローチの指示:
クレーム解釈にあたっては、明細書の先行技術記載を踏まえ、すべての実施例をカバーしかつ新規性・進歩性を維持できる解釈を模索すべきとした。具体的には「gesondert ausgebildet(別体に形成された)」と「nicht verbunden(結合されていない)」という用語の違いが特許性の要となると指摘し、原告に対し予備的請求4(HA4)を第一順位に繰り上げる検討を促した。
特に進歩性の主張立証について、被告が従来用いてきた欧州特許庁(EPO)の「課題解決アプローチ(Problem-Solution Approach)」による主張を批判し、UPC控訴裁判所(Court of Appeal)が採用する「ホリスティック・アプローチ(holistische Betrachtung / 全体論的アプローチ)」に沿って主張を再構成するよう指示した。

4. 証拠調及び通訳の要否:
公然実施(offenkundige Vorbenutzung)に関する証人尋問については、原告が不服を申し立てず争いのない事実(unstreitig)としたため、証人喚問は不要と判断した。また、被告のイタリア人参加者のためのドイツ語からイタリア語への同時通訳申請に対し、裁判所は自費負担での通訳手配(R 109)の原則に言及し、費用負担に関する立場を確定させるよう促した。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

1. UPCにおける「1.5倍ルール」の定着と実務対応:
本判示は、侵害訴訟に付随する無効反訴の訴額算定において「1.5倍ルール」が強力な標準的運用となっていることを示している。反訴の訴額を本訴と同額以下に抑えようとする場合、当事者は明確かつ合理的な主張立証を行わなければ原則が適用される。

2. EPO実務(課題解決アプローチ)とUPC控訴審(ホリスティック・アプローチ)の明確な差異:
UPCの実務において非常に重要な判示である。EPOでの無効判断のデファクトスタンダードである「Problem-Solution Approach」に対し、UPC控訴裁判所は独自の「Holistic Approach」を指向している。本命令は、UPC訴訟においてEPOの枠組みに終始した書面を提出するリスクを警告しており、代理人はUPC控訴審の最新判例に適合した進歩性論理(全体論的な評価)を構築する必要がある。

3. 中間審理(Zwischenanhörung)における裁判官の手続裁量とタイムライン管理:
遅延主張の一括承認(CMS上の全弁論受容)や、各10ページという格段に厳しい準備書面制限、事前提出を義務付けるプレゼン資料の扱いなど、UPCの報告裁判官が持つ強烈なケースマネジメント権限が示されている。実務担当者は、中間審理の段階で判決の方向性や予備的請求(Hilfsantrag)の優先順位変更(HA4のメイン化等)に関する心証が開示される点に注意し、柔軟に対応する準備が必要である。

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